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Re: 島子の夏 ( No.118 )
日時: 2009/01/01 14:57
名前: 夢月 ◆F1AECCCN32 (ID: NbE37YYW)
参照: 自分は、なにもしていないをしているんだ!



言葉にならない恐怖、それは伊織たちが感じているものと同一している。伊織と勇は、これほどまでの恐怖を感じたことはなく、涙が出そうだ。瞳が少しだけ潤んでいる。その瞳に映っている光景は、なんとも言えない凄まじい物だ。炎の壁は、瑞と苑を焼き払おうと温度を上げている。その熱さは、遠くに居る者でも火事現場に居るような……そんな熱さだった。たまに聞こえる火の壁に抵抗するような声。それは、瑞と苑が叫ぶ声だ。

「や、やめろ!!」

叫んだ後に後悔した。虐子神は、伊織と勇の居る方向へ素早く顔を向ける。鬼のように恐ろしい顔。それしか言葉が見当たらないほど恐ろしい顔だ。顔が歪んでいる……これも該当するかもしれない。
「お、おい……。どうするんだよ」
声が震えている。勇を見てみると、足まで震えている。その姿は滑稽だ。しかし、伊織はこの勇のように声が震え足が震える、そんな気持ちがとてもよくわかる。勇の問いに対しての伊織の回答は用意していなかった。つまり、ただ助けたかったから言ったのだ。
「どうするって……わからねえよ!」
つい逆切れしてしまったその時だった。

「私達はまだ死んでいないよ。このままじゃあの女狐に勝てない。だから、あんたの生気を少しばかり貰うよ」
瑞の声が聞こえた。それは耳から聞いている声ではなく心の中で聞いている声だった。おそらく虐子神には聞こえていないだろう。聞こえていたら、もっと火の温度を上げるはずだ。

「……それで、勝つなら」
「了解」

短く瑞は言うと、ほどなくして瑞の姿が消えた。