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Re: 島子の夏 ( No.127 )
日時: 2009/01/20 19:31
名前: 夢月 ◆F1AECCCN32 (ID: NbE37YYW)
参照: ——世界は終わりとともに再生された。たった一冊の絵本から始まった再生と終わりの物語。

10

「お前自身が囮になるのさ。……命の保障は無いけどね」

瑞は言った。声が少し震えながら。伊織の耳には、最後の言葉がいつまでも残っている。もしかしたら、自分が死んでしまうかもしれない。仮に、友人が助かったとしても自分の命は助からない可能性は十分にある。しかし、いつまでも考えては先に進まない。伊織は、決心した。——その間数十秒、やっと伊織もこの状況に慣れてきたらしい。

「わかった。……ところで、動いたら殺すって言われているけど。どうやって動くんだ!?」
「わらわ達に任せて!」
今までに無い、焦りすら感じられる台詞に伊織は深く頷いた。任せろ、ということは、勝手に動いても良い、ということか。伊織は、全力で走ろうとした。どういうことか勇の悲鳴は聞こえてこない。ということは、きっと後ろの二人が上手くやっているのだろう。

数分後——囮、伊織はその意味を考えていた。いくら走っても敵は動かない。目の前に移動しても。これじゃあ、囮の意味が無いじゃないか! 伊織は深くため息をついた。そもそも、相手はこちらに気付いているのだろうか。瑞に視線を送ろうとしたまさにその瞬間、虐子神はこちらに気付いたように睨み付けてきた。
「……いつのまにここに来た!?」
虐子神は目を丸くした。その質問に伊織も同じく目を丸くする。

「まあいい、動いたら……」

彼女の台詞はそこで遮られた。爆風が巻き起こる。何故か音はしない。音の無い爆弾。瑞と苑が、虐子神の目の前に居た。そして、素早く鼻を狙い蹴りを出した。蹴りが、きれいに決まる。その衝撃で、勇を落としてしまうのを伊織があわてて駆け寄った。

「救出成功……? なあ、ところで俺が囮になった意味はあるのか?」
二人に声が届くように大声で叫ぶ。隣に居る勇は、声も出ない様子だった。苑は仕方ない……というように、顔を歪めた。

「貴方に、周囲の目を……まあ、貴方に言ってもわからないだろうけど、簡単に言うと透明になる術をかけたの。その術は、人間にかけたほうが惑わしやすいし硬化時間も長いから、人間であるあなたにかけたの」
「じゃ、じゃあ、透明になるんだったら俺が勇を助けた方が……」

苑と瑞は、顔を見合わせて肩をすくめた。
「囮になったとしてもなにかわなが仕掛けてあるかもしれないから」
納得していないような納得していないような間の抜けた返事を伊織は返した。瑞と苑は、虐子神の方向へ振り返ると、鋭い眼光で睨みながらこう告げた。

「祟りは終わりだよ」