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Re: 島子の夏 ( No.33 )
日時: 2008/11/08 17:54
名前: 夢月 ◆F1AECCCN32 (ID: NbE37YYW)



病室では、二人の少年が話していた。話している、というより一方的に笑われているような感じでもあった。片方の少年、伊織はもう片方の少年、青田駿に笑われていた。

「お兄ちゃん、そんな話あるわけないじゃない」
伊織は、年下に言われて低くうなった。伊織の機嫌とは裏腹に、まだ駿は声を上げて笑い続けている。その時、病室から風がふきぬける。病室の扉が開いたのだ。
伊織と駿は、一斉に扉の方向を見る。見覚えのある、伊織のよく知っている人物の顔が現れた。

「勇!」

杖をつきながら、勇は伊織のもとへと歩いた。勇がようやく伊織の下へたどり着くと同時にまた、扉が開いた。またしても、伊織の知っている人物、乃々の顔がひょっこりと現れた。

「元気? 言われなくても元気そうだね」
乃々は、伊織の顔を見ると笑みをこぼした。
「……そのお兄さんとお姉ちゃん誰?」
駿が少しだけ顔をゆがませながら伊織に尋ねた。伊織は駿を見ると、手を駿の後頭部にやって無理やりお辞儀をさせようとした。その様子を見ると、勇は少しだけ笑った。

「ほら、はやく礼しろ! こいつはなんか病気で入院しているらしいんだ。名前は青田駿だってさ」
「へえ……。俺は勇。伊織とは悪友。こっちの女が鬼婆の井上乃々」
伊織は声を上げて笑った。乃々は、思いっきり勇を2回叩いた。勇は「ごめんなさい」と繰り返し誤っているが、乃々の怒りが冷めることはなかった。

「それで何で楽しそうに笑ってたの?」

乃々が、面白気に聞いた。伊織は駿の口を封じようとしたが、駿は伊織の体を避けて窓側にいった。さすがに伊織も病み上がりなので、あまり自由には動けなかった。
「このお兄ちゃんね、車に引かれた後ずっと真っ暗な所で誰かに追いかけられてたんだって。誰かっていうのは振り返らなかったからわかんないけど。それをね、実際にあったんだって、言い張っているの!」

駿が言い終えると、二人は哀れみの目で伊織を見た。伊織はまた、低くうなった。
しかし、駿が話していた出来事は伊織にとって本当だったのだ。