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ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 島子の夏 ( No.53 )
- 日時: 2008/11/18 18:25
- 名前: 夢月 ◆F1AECCCN32 (ID: NbE37YYW)
5
その日、伊織は午後になるまで誰とも口を利かなかった。朝から降り続いている雨はもうすぐ止みそうだ。
時計の短針が1を指す時刻、勇が病院へきていた。もちろん、乃々もいる。
「あれ? ……駿は?」
勇が何気なく尋ねる。伊織は、答えるのに困った。しかし、本当のことを言おう——、そんな気持ちがわいてきた。
「……発作があって……大きな病院へ移った」
乃々は持っていた缶ジュースを落としそうになった。勇の目はまん丸に開いている。皆、言葉をいえない状態だった。沈黙が訪れる。数分間が何時間にも思えるような長い沈黙。
「大丈夫だよ、良くなるよ!」
「そうよ。また笑顔で戻ってくるよ!」
皆、励ますように言った。しかし伊織の顔は少しだけ曇っている。その顔を見た乃々は、冷たい缶ジュースを伊織の額に当てた。冷たさが、額に伝わってくる。暑かったのが、少しだけひんやりした。
「ジュースでも飲んで元気だしなよ!」
伊織は、口をぽかんと開けたままだったが、缶ジュースを受け取ると苦笑した。勇もつられて笑う。伊織は缶ジュースを思いっきり飲んだ。蜜柑の味が微かにする。
「ありがと」
「どういたしまして」
乃々はすました顔で言った。
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