ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 島子の夏 ( No.73 )
日時: 2008/11/24 15:05
名前: 夢月 ◆F1AECCCN32 (ID: NbE37YYW)
参照: 少し腹黒いめんどくさがり屋の十二歳です。現実ではうるさいのは苦手ですね、はい……;;ファンタジーが死ぬほど大好きですv



伊織は机と向き合いながら夏休み一周間目の宿題のノルマを半ば諦めかけていた。伊織はいつものように外へ出かけられないのに不満を持っていたのだ。手を動かしてはおだやかな海を眺め手を動かしてはおだやかな海を眺める、その繰り返しだった。
夏休み初日目に橘香織という伊織の仲間が水害の事故で死んでから、伊織の母親は外へ出るのを硬く禁している。伊織は初めは仲間が死んだのに元気に外で遊んでいるのも悪い、と自分自身に説得したものの一週間目となるとさすがに我慢の限界が近づいている。

「遊びたい遊びたい遊びたぁーい!!」
大声で手足をじたばたしながら言った。小柄な体系、大人しそうな顔立ちとは思えないほどの、わんぱくぶりだ。起き上がると、宿題を睨みながら部屋の隅に投げ捨てる。数学、と書かれた新品の教科書は音を立ててちらかった本の山へと吸い込まれた。
するとタイミングを見計らったようにプルルルル……と電話が鳴る。

「あ、電話」

伊織の心は弾んでいた。電話の内容が友達からの遊びの誘いからかもしれないからだ。伊織は勢い良く立ち上がり、電話のある廊下へと勢い良く駆けていった。伊織にとってはお馴染みの電話の着信音は途切れる前に電話を手にする。伊織は勢い良く受話器を手に取る。
「もしもし」
「もしもし! 伊織か? 俺だよ、俺!」
「……、勇かよ」
ぶっきらぼうに伊織は答えるものの、内心ではわくわくしていた。中西勇という親友からの電話だったからだ。伊織はいまかいまかと遊びの誘いの言葉を待ちわびていた。

「今日遊ばないか? いつもの駄菓子屋に集合な」
その言葉が出た時、伊織は受話器を取り落としそうになった。嬉しさが体からにじみ出ている。すぐに、帽子を見つけ、黒の財布を持ち出かける準備をした。

「行って来まーす」

入学祝に買ってもらった自転車に飛び乗るとすぐさま待ち合わせでお馴染みの場所の駄菓子屋へと向かう。外へ遊びに行くことはなかなかなかったので伊織は外の空気を吸い込んだ。横を見ると海が広がっている。

「始まる。また、始まる」

伊織が自転車で過ぎ去った後、向日葵畑のほうから淡い水色のワンピースを来た幼い女の子が現れ、か細い声で呟く。
しかし、そんな声にも気付くわけなく伊織は駄菓子屋を目指した。