ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 島子の夏 ( No.80 )
日時: 2008/11/28 18:57
名前: 夢月 ◆F1AECCCN32 (ID: NbE37YYW)
参照: 少し腹黒いめんどくさがり屋の十二歳です。現実ではうるさいのは苦手ですね、はい……;;ファンタジーが死ぬほど大好きですv



雨上がりの日、嬉しいニュースと悲しいニュースが同時に来た。
病室の窓から見る景色を伊織は結構気に入っている。窓から見えるのは、大きな銀杏の樹だ。嫌な臭いだが、銀杏の実は伊織の大好物の一つである。銀杏の樹も見ごろになれば葉が色づき綺麗だ。しかし、まだ見ごろではない。伊織は入院する前にこの樹が色づくのを何回も見てきた。そのため、色づくのがとても楽しみなのだ。その銀杏の樹の周辺にあるのが向日葵だ。元気に咲いていて、伊織自身元気付けられることもある。
——そんな窓の景色を見ていた伊織は病室の外からの騒がしさを勘付き始める。

「よ、伊織」
「伊織君」

伊鶴と晶だ。日替わりで友達が来るが、兄が伊織の友達と来るのは初めてだった。伊鶴は、最近茶色に染めたという髪の毛を少しだけ掻いた。何か言いづらそうだ。

「お兄ちゃん、何か言うことあるんじゃないの?」
伊織が、声を低くしていった。伊織は何か勘付いた時につい声を低くしてしまうという癖がある。その癖を見抜いた兄は、「あー……」などとうめき声を上げている。晶は、話がわからないのでついさっき伊織が見入っていた窓の景色を見入っていた。伊鶴が、言いにくそうに口をあけた。
「それがな、引越し……するんだと。10月くらいに。本当は前から決まってたけど葬式やなんやかんやで言いそびれてて……」
伊織はびっくりして「え」と間抜けな声を上げた。驚いたのは伊織だけではない。晶もだ。晶は瞳を潤ませ今にも泣きそうな顔をしている。
「秋田県のばあちゃんがちょっと介護が必要な状況になって……同居するから」
「お兄ちゃんはこの島に残る? お兄ちゃんはもう高校一年生だし……」

伊鶴は、首を横にふった。伊織は伊鶴が残るのなら残るつもりだったのだろう。伊織は一人暮らしを認めてもらえないが、伊鶴は認めてもらえるかもしれないからだ。晶が、あわてて伊織の下へと駆け寄った。

「あのね、これは良いニュースなんだけど……。駿君の具合良くなったんだって!」
晶が元気いっぱいに言っても伊織は素直に喜べなかった。