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ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 島子の夏 ( No.83 )
- 日時: 2008/11/30 20:09
- 名前: 夢月 ◆F1AECCCN32 (ID: NbE37YYW)
- 参照: 少し腹黒いめんどくさがり屋の十二歳です。現実ではうるさいのは苦手ですね、はい……;;ファンタジーが死ぬほど大好きですv
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引っ越す——そう言われても実感が無い。今まで島の外は数回しか出たことが無い。というよりは出る必要が無かった。ずっと島の中で育った伊織にとっては、この島は親のような存在だ。いや、伊織に限らず島の住人のほとんどがそうだろう。
「いーおーり!」
その声に伊織の体はびくんと跳ね上がる。声の主は勇だ。伊織は椅子車に乗りながら島周辺を散歩しているのだ。引っ越す伊織は島の風景をたくさん見ておきたいという強い気持ちにより、誰かと一緒なら散歩してよいそうだ。いわゆる特例というやつか。
「な、なんだよ……」
「んな驚かなくてもさあ。あ、そうだ! 森の所行こうぜ!」
勇が弾んだ声を出す。伊織はその声に多少うるさいと感じながら、耳を手でふさいでいた。
勇は伊織の返事も聞かずに、島の奥へと椅子車を移動させた。島の奥に行くつれにだんだん民家が少なくなっていく。それに伴い、向日葵が多くなっていく『自然を増やそう』という目標の元、島の住民が季節の花を島の奥……民家が少ない所に植えているのだ。
「そういや、森って久しぶりだな。……つーかさ、俺ら森まで入っていいの? 仮にも俺は病人なんだし」
伊織が不機嫌そうに言った。しかし、そんな反対の声も聞かずに勇はどんどん森の奥にまで入っていく。
「いいじゃん、いいじゃん」
勇が笑う。伊織は呆れたようにため息をついた。
——その時、伊織の視界は真っ白になった。
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