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Re: †Dark Resonance† -黒き残響-  ( No.12 )
日時: 2009/08/19 16:48
名前: 冬宮準 (ID: iTW0Fx5P)

Noise 2
Spectre called....

「……は?」

これが、凪の誘いに対する水の一番最初の反応であった。かなり短い一言。いや、「言葉」にさえなってはいない。しかしそれにもかかわらず凪は続ける。

「これは強制的なコトなのよ、水。キミは私達漆黒の塊にとっては必要不可欠な存在なの。もし嫌だというのであれば…」

凪は右手をグッ、と握り締めた。すると彼女の手の周りが青白く光り始め、その光は次第に刀の形に変化していった。気が付けば凪の手の中には一本の日本刀が握られている。凪はその刃の先を水に向け、彼を睨んで先程とは違う、少し低めの声音で言った。

「キミを除去するわよ」

凪の刀が銀色に光る。何とも冷たい輝き方だった。水は黙ったままだ。凪は「どうする?」とでも言っているかのような表情をしている。水が口を開こうとした瞬間。

パキッ。

急に屋上の地面にひびが入った。それは凪の足の下を抜け、水へとやってくる。驚いた凪は振り返った。そして、息を呑む。しかし、喫驚の表情はすぐ笑みに変わり、彼女の目の前にいる大きな黒い猫とも骸骨とも勿論人間ともいえない生命体の方を見ていた。

「サーベル…!かなり歪んでるわ…!」

凪はそういうと同時に、銀の刃をそのサーベルと呼ばれた醜態に向けたかと思えば、凪は強く屋上の硬いコンクリートを蹴って高くに舞い上がった。サーベルよりも高い場所まで行くと、彼女は刀を後ろに構え、下に落ちると同時に刃でサーベルを真っ二つに切り裂く。幻覚であるのかも知れないが、そんな凪に一瞬銀色の鳥の姿が重なったように水には見えた。酷い醜態によく似合った気色の悪い声音で、サーベルは叫び声をあげる。するとそれは風が吹くとともに砂のように崩れ落ち、最終的にその姿は無くなった。さすがの水の焦げ茶色の目が見開かれる。それにも気付かずに慣れた手つきでハンカチで刀にへばり付いたサーベルの紅き血を拭き始めた。 そして、水を見る。

「あ、ビックリした?」

「今の…何?」

「はい、よく質問できました〜。アレは『サーベル』。別世界から出口を見つけてはコチラに干渉してくる生命体よ。それを滅するのが、漆黒の塊の役目の一つなの」

凪は説明し終わると、刀を横に大きく振って汚れを取った。そしてそれを彼女が強く握ると、刀は青白い光に包まれ、姿を消した。無表情ではあるが少々怖気の混じった瞳をしていた水に、凪はニッコリと笑いながら手を差し伸べる。

「漆黒の塊の事、迷ってるんでしょ。ならその目で見てみればいいわよ。私達がどんな者なのかをね」



放課後。夕日が空を綺麗な橙色に染めていた。夕空を眺めながら、水は一人学校の正門に続く壁に寄りかかっていた。門からは何人もの生徒が清流のように出て行く。そんな煩さを無視して、水は小さく屋上での凪の間違いを呟いてみる。

「160cmじゃなくて、158cmなんだけどなぁ…」

答える者は誰もいないはず……なのだが、

「え?そうなの!?やっぱり小さいのね〜」

と、昼休みに聞いたことのある少女の声が、水の真上から聞こえた。いつの間にか水の瞳に映っていた夕空は無くなり、代わりに黒い長髪の持ち主、凪の顔がそこにはあった。驚いた水は壁から離れる。すると彼は凪が壁の上に乗っかっていることを理解した。凪は征服のスカートと黒髪を揺らしながら華麗に壁から飛び降り見事に地面に着地すると、水の方へ向かい、相変わらず明るく言った。

「さて、行こっか。漆黒の塊のアジトへ。ちゃんと付いてきてね〜」

水は迷いつつも抵抗せずに静かに頷いた—…。