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Re: †Dark Resonance† -黒き残響-  ( No.18 )
日時: 2009/08/20 01:02
名前: 冬宮準 (ID: T8WGJY2W)

Noise 4
First step to Black Sort

「レキ!藤(トウ)!連れて来たよー!」

鉄製の大きな扉を開けると同時に、凪は元気よく水の手を引きながら扉の奥にいた二人の男子に言った。隣には彼女の幼稚すぎさに呆れた表情を浮かべる霧もいる。霧は水に優しく説明した。

「ここが漆黒の塊のアジト。なんかカタイ雰囲気で悪いんだけどね…」

水は「アジト」と呼ばれたかなり広い部屋を見渡した。まるで実験室のようだが、パソコンや謎の液体入れが並ぶ机や棚に囲まれつつも唯一暖かい雰囲気を放つソファやテレビが中心に堂々と居座っている。部屋の隅には二階へ繋がる鉄製の螺旋階段が設置してあった。ソファには黒いニット帽を被った少年が、パソコンの前の椅子には眼鏡をかけた青年がパソコンをいじりながら座っている。ニット帽を被った少年は、水のほうを見て問うた。

「誰それ」

「この前ちゃんと話したでしょー!月城水!『意志の紡ぎ手』よ!」分かった、レキ?」

「あー…。そっか」

レキと呼ばれた少年はつまらなそうに言うと、ため息を一つ付いた。どうやら凪はレキのことをあまりよく思っていないらしく、いつの間にか彼女はレキを睨みながら、八つ当たりをしているのだろう、握っている水の手首を一段と強く握った。水の手が白くなっていく。

「…いっ…」

水が思わずそう呟くと、凪はハッとし、水の手首を離した。そして両手を合わせ、申し訳なさそうな顔をして手首をさする水に謝罪の言葉を述べた。

「ごめん!本当にゴメン!」

「…平気だよ。別にいい」

「本当?有難う!」

凪の顔がパァッ、と明るくなった。しかし水の表情は「?」という文字が顔に書いてあるかのように困惑していた。何故凪が「有難う」と言ったのかが、水には全く理解ができない。凪を一瞬変人女と思いかけていた。

「えーと、一応紹介しておくねっ」

凪はそう言いながらレキに近付くと、彼の頭を叩きながら言った。

「『コレ』は夕暦蜩(ユレキ ヒグラシ)。高1の16歳。皆はレキって呼んでるけど、たまにヒグって呼ぶ人もいるわ」

自分を物をさす代名詞で呼んだ凪が許せないのか、レキは頭に乗った凪の手を乱暴に払った。それに凪もムッとした表情を浮かべたが、すぐに明るい顔に戻ってパソコンを絶えず弄る眼鏡の青年の方を見た。

「あの人が……」

凪が紹介しようとするのを、パソコンの画面から目を離し水のほうを振り向いた眼鏡の言葉が遮る。

「わいの名前は日向藤(ヒュウガ トウ)や。藤でええ。あ、24歳な。バリバリの関西弁しゃべるんやけど、そこんとこは許しといてな」

藤は水にニッコリと笑って見せた。しかし水は静かに頷くだけで、笑顔というものは見せなかった。そんな彼の肩に霧の手が優しく置かれる。水は霧の方を振り返り、「なんですか」と、声に出さなくとも相手にその言葉を伝えているかのような顔つきで霧を見上げていた。霧はそんな水の態度にも関わらず、優しく微笑んでいた。

「僕は夜柏霧(ハヤク キリ)。漆黒の塊を束ねる存在だよ。一応勘違いしないように言っておくけど、漆黒の塊の仲間はコレだけではない。だから普通の街中でも、バッタリ会っちゃったりするかもね」

「…そうですか」

水は聞くのが面倒くさそうに答えると、自分の肩に乗った霧の手を降ろしながら問う。

「…霧さん達は俺をどうしたいんですか」

そんな急な質問に、霧は少々驚いたようだ。なぜなら、彼はまだ水に水を利用したいという事は教えていないから。凪も驚いたようであったが、素直に水の問いに答えた。

「力を貸して欲しいのよ」

「力?」

「ええ。キミがさっき帰り道で使った、『神の意志』をね—…」

凪と霧はソファに腰掛けた。それに釣られるかのように水もレキの隣に座る。

「『神の意志』って何?」

「あれ、何事にも関心のないキミが沢山質問してきてくれるなんて、思っても無かったわ。まぁ、いいや。『神の意志』ってのは、100年前にこの世の護衛人達によって生み出された、とっても大きな力のことなの。コチラにやってくるサーベルを一瞬にして滅する事の出来る力よ。しばらく行方不明になってたんだけど、それがキミの—…」

「俺に宿ってるんだね」

凪はまた言葉を遮られ、少々イラついている様だ。彼女の足が床を乱暴に叩く。床は「イタイ」と悲鳴を上げているように乾いた音を部屋中に響かせた。そんな音は無視して、水は凪の顔を真っ直ぐに見て、短く、しかし強く言った。

「いいよ」

「え?」

「俺を使っても。サーベル達が俺の居場所を荒らしたりしたら面倒くさいから」

凪、霧、レキ、そして藤の目が見開かれた。こんなに早くに納得してくれるとは思ってもいなかったようだ。水を除く全員の顔から、嬉しそうな笑みが零れた。レキさえも微かだが安心したかのように笑っている。凪はスクッと元気よく立ち上がると、水を見下ろしながら言った。

「キミにはここに住んでもらうことになるけど…いいかな?ご両親心配しない?」

「するわけないよ」

「…え?」

「両親はもう、いないから」

水の言葉に、凪は息を呑んだ。悲しい事を言ったのにもかかわらず、水の瞳はなんの光も含まない平坦なものであった。しかし凪はすぐに気を取り戻して、できるだけ明るい声を出そうとしているのか、微かに震える声で言った。

「じ…じゃあ、今日から宜しくね!水!」

凪は水に手を差し伸べた—…。