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Re: †Dark Resonance† -黒き残響-  ( No.40 )
日時: 2009/08/20 18:54
名前: 冬宮準 (ID: t18iQb5n)

Noise 7
I shouldn't be here

「…ん…」

水はゆっくりと目を開けた。気づかぬうちに彼は白いベッドの上で寝ていたようだ。白く光る電気が、かなりぼやけて彼の目に映る。アジトではなく学校の保健室にいることを理解した。ぼやける水の視界に、急に藤のほっとしたような顔が現れた。水はボーっとした顔で藤を眺める。しかし自分の腹に突き刺されたクナイのことを思い出し、藤の顔から目を離し、布団の中にうずくまった。

「えっ!何かソレ酷くないか!?確かに痛い思いしたかも知れんけど、あれしか方法がないねん!って、聞いとる!?」

「…うるさい」

水のハッキリとしない声が布団の中から聞こえた。しかしその声は少しだけ涙雲っているようにも思えた。

「…水君?」

「………」

「どしたん?」

「…うる……さ…い」

水の視界が急に明るくなった。藤が布団を取ったのだ。水は顔を枕に埋もらすと、面倒くさそうにいつもの棒読みボイスで言った。

「…何」

「泣いてるんやないの?」

「…違う」

「じゃあ何やねん。『神の意志』の力で腹の傷も治ってるはずやし、どしたん?」

「俺なんか、いなければよかったんだ」

突然の水の言葉に、藤は息を呑んだ。水の枕をつかむ手が、強く握られ、微かに震えていた。藤は水の背中をさすろうとした。しかしその手はスキンシップが大嫌いな水に感じ取られてしまったのか、顔を枕に埋もれらさせたままの水の手に振り払われてしまった。

「関わらないほうがよかった。俺のせいでレキは血を吐いた。俺のせいで藤が抄錬寺に突き飛ばされた。俺のせいであの女達が傷ついた。俺のせいで漆黒の塊の人が苦しむんだ。全部…全部俺のせいで…っ!」

いつもの棒読みではなく、後悔の詰まった声で水は曇った声で言った。枕がさらに強く握られる。

「そんなことなら………

俺なんていなければよかったんだよ!!!!!」

水がそう叫んだ瞬間。

「バッカじゃないの、あんた!」

さっきまでいなかったはずの凪の怒鳴り声が水と藤の耳に流れ込んだ。藤は保健室のドアの方を振り返ると、そこには乱暴にドアを開けた形跡のみられる凪がたっていた。彼女の怒鳴り声にも関わらず、まだ枕に顔を突っ込んでいる水のほうへズカズカと歩いていき、彼の前髪を強くつかんだ。そんなことにも関わらず水の顔は泣き顔ではなく無表情であった。

「…何」

「何もなんもないでしょう!あのねぇ、自分なんていなければいいだぁ?そんなのただの馬鹿の頭の中で渦巻く愚考よ!!わかってんの!?」

「…うるさいよ」

「何ですってぇッ!」

「俺は本心を述べただけだよ。君には関係ない」

水は凪の手を離すと、ベッドから飛び降りた。そして、藤についさっきとは違う無感情な声音で言った。

「服が血まみれなんだけど…着替えある?」

藤は頷くと、別人のような水に紺のTシャツと征服ののカッターシャツを渡した。それを水は無表情で受け取ると、礼もなしに保健室を出て行った。藤はもう水の無関心、無表情、無口、無愛想の四つの「無」にもう慣れたのか、しょうがないなという顔をして保健室のソファに座った。

「僕が君たちの通う学校の保健医でよかったよ、本当に」

凪はソファに座ると、ポシェットから赤い箱を取り出して、中のポッキーを食べ始めた。

「ごめんね、私ここに忘れ物取りに来てて、アジトに鍵かけてたから…」

凪がそう申し訳なさそうに言うと、藤はニッコリと笑って返した。

「平気だよ。それにしても水君…」

藤と凪は開いたままのドアのほうを見た。凪が藤の言葉を終わらせる。

「あのまま逃げられちゃ困るわね」