ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: †Dark Resonance† -黒き残響- ( No.45 )
- 日時: 2009/08/21 10:20
- 名前: 冬宮準 (ID: o.w9FXPe)
Noise 8
Mission of Black
水はいつの間にか学校の屋上にいた。夜の学校なんて、生まれて初めて…のはずである。しかしあくまで「多分」だ。なぜなら、彼には幼いころの記憶が曖昧だからである。親が死んだこと以外は何も覚えていない。フラッシュバックされたことさえない。でもそんなこと、無関心人間を貫いている水には全く興味が無かった。水はひとつため息をつくと、屋上の手すりに寄りかかり、久しぶりに見る輝く星宿達を眺めていた。そして、呟いてみる。
「…本当に、何がしたいんだろ…」
「3つの強大なサーベル達を、捕まえたいのよ」
答えが返ってくるはずが無いと思っていた水の隣には、なんの気配も発さずに来た凪がいた。彼女のその忍のような身体能力にはもう慣れたのであろう、水は無表情で夜空を見上げている凪の方を見た。凪は続ける。
「この世には今、漆黒の塊、深紅の塊、群青の塊(セルリアンソート)、純白の塊(スノウソート)、翠緑の塊(エメラルドソート)の五つの「塊」があるの。全ての塊は強大な力を持つと言われるサーベルを欲し、塊の世の中の頂点へ立とうとしている。でもね…」
凪は水の肩に手を置くと、真剣そうな声で言った。
「それだけじゃダメなの。「王」になるってことは」
凪は水の肩から手を離すと、水の額を指差しながら言い出でた。
「『神の意志』、それが無ければ、たとえサーベルが揃っていようとも王になどなる事は出来ない。そういうね、掟があるのよ。だから全ての塊はキミを狙う。助かるにはキミが塊の世の頂点に立たなければならないの。だからその為に…」
凪は手をグッと握り、一瞬にして現れた刀を地面に突き刺すと、まるで賢者を慕っているかのように跪く。そして、風が強く吹き始めると同時に強く言った。
「漆黒の塊は王を守る!」
その声は凪だけのものではなかった。何人かの男の声が、凪の声音と重なっていた。いつの間にか、彼女の後ろで霧、レキ、藤が横に並び水のほうへ下を向いて跪いている。水は驚きのあまり言葉を失っていた。自分が「王」にならなければならないなんて、そういう宿命(さだめ)が彼を待っていただんて事は、全く持って予想していなかったからだ。
「…顔、あげたら。主従関係みたいなのやられると、俺が気まずい」
「あ、照れてるんだろ」
レキは立ち上がると同時にニヤつきながら言った。しかし水はそれを相変わらずの無表情で返す。レキは少しムッとすると、水の黒に近いこげ茶色の髪をまるで小さなガキを弄ぶかのようにくしゃくしゃと撫でながら言った。
「ほんっとに可愛くないチビだな…お前」
「……なんであんたに言われなきゃいけないの」
「おい、その無関心棒読みやめろよ、眠くなるだろ」
「…寝れば」
「き…貴様…;」
レキは水の冷淡さにかなりムカついているようだ。水はそんなことも気にせずレキの手を払うと、唇の両端を微かに上げて、珍しく皆に優しく言った。
「……戻ろうか」
これが、水が漆黒の塊に初めて見せた笑顔であった—…。