ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 銀蝶マリア #1 ( No.1 )
- 日時: 2009/08/29 22:06
- 名前: 霧茜 (ID: 7z3IIjJJ)
銀蝶マリア
「ユウ」
昼下がり。外へ出かけてみる。
確か、今日の夕飯を作るのに材料が足りなかったはず。今日はカレーだ。
天気はよかった。なんなら、友達と遊ぶ約束くらいすればよかったかもしれない。
横断歩道。人が多かった。
突然襲ってくる不快感。どこからか込み上げてくる異様な感覚。
探せば、すぐに見つかる。
可哀相に、でもそれが変わることなんてない。
あたしは諦めてるから、かわいそうだけどね。
視線の先にはまだ幼い男の子がいた。母親と仲良く手をつないでる。
信号が青に変わる。
人々が次々と横断歩道を渡っていった。そして、あたしも。
あたしが渡りきった後、ふと振り返ってみるとあの親子はもういなかった。
母親だけが、横断歩道の先に立っていた。男の子はいない。
母親は必死に周りを見回す。
ああ、さよなら。
信号が点滅し始め、人々が慌てて横断歩道を渡っていく。
そして見えた男の子の姿。
「シュウ!」
母親の声が響いた。
そして消える男の子の姿。
悲鳴とブレーキ音の不協和音。
あたしはすぐにその場から立ち去った。
久しぶりだった。あんなに近くは。
いつも外に出れば感じる不快感。でもそれはそれほど強いものではなくて。
ぴりぴりとしたその感覚は、その時が近ければ近いほど強くなる。
男の子はとても強かった。
シナリオはなんとなく想像ができていた。だから、たぶんあの場であたしが一番冷静だろう。
もう、慣れた。
あたしには人の死がわかる。
というより、その人の死を予知できる力がある。
こんな力、持ってても良い気分はしない。心の準備はできるけど。
その人の顔を見る度思う、何も知らないことは幸せだなって。
あの男の子だって、何も知らずに、わからずに、ぷつりと死んだ。
きっと男の子は何が自分に起きたのかもわからないまま、母親と離れ離れになってしまった。
何度も見てきたし感じてきた。
こんなこと、誰にも言えないし誰にも信じてもらえない。
あたしは諦めてる。
何事もなかった様にスーパーで買い物をする。
帰り道、あの事故があった道は通らないようにしよう。
ふと、ヨーグルトを見て思い出す。
あたしの目の前で死んだ人間。
あの時の、あの死は予知できなかった。
あれはなんだったんだろう・・・
全校集会。突然の死。
何も感じなかったあの場から、吐きそうになるほどの不快感が突然襲ってきた。
気がつけば、悲鳴。
全校集会中、ステージ上で、教頭が死んだ。
ぱったりと、苦しむ様子もなく死んだ。突然死。
体育館はパニック状態になった。
あたしも動揺した、予知できなかった。
結局教頭は原因不明の突然死。
ヨーグルトを買い物かごに入れながら、あの時を思い出していた。
教師も生徒も半狂乱。
でも、印象に残ってる人間がいた。
唯一冷静だった。
数学教師。
虚ろな目で、教頭を見ていた。