ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 銀蝶マリア ( No.4 )
- 日時: 2009/08/30 12:56
- 名前: 霧茜 (ID: 7z3IIjJJ)
銀蝶マリア
「ユカリ」
夢は、無意識の願望。そのとおりだと思う。
お金が欲しい。恋人が欲しい。有名人に会いたい。洋服が欲しい。
人間はみんな、欲にまみれてる。
夢はそれを叶える一時の幸せ。
あたしの趣味は、それを悪夢に変えること。
たまに見る悪夢は恐怖。苦痛。
うなされ、汗をかき、涙を流し、夢から解放される。
幸せな夢は一瞬で表情を変え、地獄になる。
あたしは苦痛に、恐怖に染まる人間を見るのが好き。
あたしだからこそできる、最高のマイブーム。
あたしは、他人の夢の中を自由に行き来できる。
最初こそ戸惑った。
あたしの夢には無数の扉が必ず存在する。色、形、大きさ、どれもバラバラ。
その扉の向こうが、他人の夢の中。
希望、欲望、幸せがつまった世界。
あたしは、それを壊すの。
白かった世界は一瞬で真っ黒に染まる。
夢の中のあたしは、いつも真っ黒な服を着て、フードを被ってる。
だって、クラスのみんなに顔がばれたら、困るでしょ?
今日も扉だらけの夢。
今日は、学校の子達はみんな同じような内容だろうな。
教頭の突然死。
印象の強い記憶も夢に反映される。これもわかってる。
「ッきゃあああああああああああああああ!!!!!!ああっああ!!」
教頭の悲鳴。
黒い扉からだった。
そして、扉の隙間から流れ出る、赤い血。
普段なら他人の悪夢にわざわざ行くようなことはしない。
でも、今回は教頭が関わってそうだから、その扉をゆっくりと開けた。
そこに立っていたのは、あたしのクラスの担当数学教師。
生徒に人気で、人を覚えるのが苦手なあたしでさえ知っている。
「誰だ!?」
声を張り上げてこっちを向く。
でも、手で目を覆っている。
あたしは、答えない。
「・・・・お願いだから、いなくなって」
声がいつものトーンに戻った。でも、どこか悲しそうだ。
「・・・高橋先生」
あたしはフードをとって、顔が見えるようにした。しかし、先生は手をどかそうとはしない。
「その声・・・成沢、さん・・?」
「そうです」
「じゃあ尚更ここからいなくなって!」
さらに声を張り上げる。
「・・なんでですか?」
「・・・・・俺はね、目で人を殺せるの。教頭も姉さんも、俺が殺した」
夢は無意識の願望。ただ、殺したかっただけじゃないの?
「成沢さんも俺の目を見たら、死んじゃうから・・・こんな異常者・・・」
異常者。笑ってしまいそうになった。もし先生の力が本当なら、あたしと同じ異常者。
「それはね、異常でもなんでもないんですよ」
「でも、もう2人も殺してるんだよ?」
「それは2人が悪いんですよ」
ゆっくりこの世界から出ていく。扉の向こうへ。
明日、このことを先生が覚えててくれたらおもしろいな。
こんなにおもしろいのは、あの子の夢以来。