ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 銀蝶マリア ( No.5 )
日時: 2009/08/30 13:49
名前: 霧茜 (ID: 7z3IIjJJ)

銀蝶マリア
   「ユズ」


人間の死体は見たくない。
人間の死体は真っ白で、眠っていて、そんなイメージがあった。
殺された人間の死体はそんなことないだろうけど、昔のあたしにはそんなイメージがあったの。
おじいちゃんの死。
あたしが小学生の頃だった。
病気で入院していたおじいちゃんは、もうすぐ退院できるはずだったのに。死んでしまった。
容態が急変してしまったと医者は言った。隣にいた看護婦も悲しそうにしていた。
あたしは、そっとおじいちゃんの手を握った。



「志村さーん、点滴かえましょうねー」
「馬鹿!誰だ!?この点滴に変えたのは!!?」
「この点滴は違う!」
「容態がっ!」
「冗談じゃない!医療ミスでうちの病院は・・!!」
「そんなこと言ってる場合じゃない!!」
「先生!」「なんで点滴を間違えた!!」
「先生っ!」「ちくしょう!!」
「もうだめだ・・・・・・・・・・・・・・・」


流れてくる映像。どれも鮮明で、はっきりしていた。
おじいちゃんの、視点。死ぬ間際の視点。
おじいちゃんはただ容態が急変して死んだんじゃない。医療ミスで殺されたんだ。
あたしは親に言った。でも当然信じてくれるはずもない。
それからだった。
あのときは死体に触れて、記憶を見た。
でも今は、死んだ人の顔を見るだけで記憶が流れ込んでくる。
だからニュース番組はあたしにとって拷問だった。
次から次へと流れ込む記憶。
撲殺、刺殺、火の海、水の中、森の茂み
質が悪いのは、その流れ込んできた記憶が、その日、夢でフラッシュバックすること。
何人もの殺される瞬間が、一斉に飛び込んでくる。
毎日が悪夢だ。




この前、あたしの学校の教頭先生が死んだ。
なんの前触れもなく、突然、ぱたりと死んだ。
そして流れる、直前の記憶。
数学の高橋先生に言い寄る教頭先生。高橋先生の後ろ姿。
ステージ上、一瞬、高橋先生を見る。
先生は、教頭を黙って睨んでいた。

ぷつん。

そこで記憶は終わった。そこで教頭は死んだ。
わからない。
最後に残るのは、凄く怖い目をしていた先生だった。
あの目が、あたしは気になってしょうがなかった。




「・・・なんで、なんで・・・」
教頭の突然死、体育館は混乱し、生徒は教室に戻らされるところだった。
「・・・・・なんで、突然・・・」
凄く真剣に考え込んでる女の子がいた。何組かはわからない。
「なんでわからなかったんだろ・・・」
わからなかった?
「・・・はぁ、意味わかんない」
その女の子はぶつぶつ言いながら、教室に入っていった。
4組。



あたしは、今もニュースは見ない。
あの教頭の死、あのせいで、
あたしは今、奇妙な人間達を知ることになる。

自分以外の、異常者を。