ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 月 下 の 犠 牲 ( No.21 )
- 日時: 2009/09/20 16:11
- 名前: 月乃 葵 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: NjXpoRP/)
第七話
良く考えてみれば、悠月と流架以外の全員が桜弥の名前を知らなかったため、自己紹介タイムが始まった。翡翠はお得意のスマイルを浮かべて、明るい声で、來兎は控えめな微笑を浮かべ、静かな声で。
サクリファイスたちについては、桜弥は全員が名前を分かるようだったので、自己紹介は無しだ。
さて、自己紹介が終われば、質問タイムが始まる。桜弥はほぼ答えているだけである。優しく微笑みながら一つ一つの質問に丁寧に答えてゆく桜弥。そんな桜弥も一つの質問を聞いて表情を曇らせる。
その質問とは「何故、桜弥さんは、サクリファイス研究所に居て、何をしているのか」と言うものだった。困ったような、何か嫌なものを思い出しているような顔。
「……十年くらい前でしょうか? 僕がまだ十歳の頃です。流架と悠月は四歳でしたね……。二人の下には梨桜っていう弟が居ました。親が僕達の目の前で撃ち殺されました」
目を見開く翡翠と來兎。桜梨も少し驚いたような顔で硬直。悠月は黙って俯いたまま動かない。静かな声で話を続ける桜弥。
「悠月は親が決めていたところへ養子に。僕と流架は何も出来なくてその辺を彷徨っていたんです」
重い空気。翡翠とリーフィルが顔を見合わせる。桜弥の頬を涙がつたい落ちる。誰も声を出すことが出来ず、黙って下を見たり、天井を見上げたりするだけ。
「そしてそれから一年ほど立った時に、親を殺したやつらが……僕たちの前に」
きつく唇をかみ締める桜弥。強く握り締めた手。悠月がゆっくりと顔をあげる。悠月と桜弥の目が合う。黙って目を逸らす桜弥。
「その人たちに僕と流架は保護されました。何故かは分かっていますよ……僕と流架の力が目当てだったのでしょうね」
「力? なんのですか?」
桜弥が黙り込んだ後に、首をかしげ、そういうのは來兎。桜弥は頬をつたっていた涙を拭い、優しく微笑んでから、フワフワと手を動かす。不思議な模様が淡い光を放って桜弥の中に消える。
「光花」
スッと桜弥が手を振り上げると、光を発する花が桜弥の周りに浮かぶ。目を光らせる翡翠。驚いたように回りに浮かぶ花を見つめる來兎。
「超能力とでも言っておきましょうか。僕は光を、流架は水を、悠月は植物を操ることが出来るんです。後、君達も力が完全に目覚めれば、自分にあった属性のものを操ることが出来るようになります」
突拍子もない話である。目を大きく見開く翡翠。桜弥は薄く、そして優しく微笑んで立ち上がる。
「サクリファイスは、まだ力が目覚めていない超能力者を守るために居るんですよ。君たちの学校は特殊でね……一種の保護施設とでも言おうか。力が目覚めていない子を集めている所なんだ」
「……でも僕の親は普通の人で……」そう呟く來兎に優しく微笑みかけ、「親が普通の人でも、子供が超能力者になる事はありますよ。僕達もそうですから」と言う。
信じられないと言うようなそんな來兎の顔。鼻で笑う翡翠。
「どうせインチキマジックでしょう? 超能力なんて非科学的なもの信じられませんわ」
そんな風に言う翡翠を見て、少々困ったような顔をする桜弥。でもすぐに微笑を浮かべ、「非科学的ですか……。まぁ普通はそうなるでしょうね」と言うのだった。