ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: >>>  ア   ク   セ   ス >>>> ( No.137 )
日時: 2010/01/17 00:46
名前: RADELLE03 ◆X6s/dtSC5A (ID: QYM4d7FG)

 「 そんなこと分からないじゃん !まだ——」
 「 まだ ? まだ何 ? 」
弱弱しく、自信が無かった舞の声は見事に詩音の声にかき消された。
  どうしよう、どうしよう……

  どうすればいいんだろう…………。

水さえあればと何度も思ったが、思っただけで水は出てこない。
これ以上燃えてしまったら大惨事になってしまうだろう。

雨でも降ってくれないだろうかと奇跡に等しい事を考える舞だったが、こんな時にかぎって降らない。

勝手に苛々する舞だったが、詩音のせいで余計に苛々してしまう。

 「 今は何もしないであげるけど、間崎さんだけは連れて行きます」
有無を言わさず強引に間崎の腕を引っ張って行こうとするが、勢い良く詩音の手を振り払いた。

間崎もどうやら苛々しているようだった。

大きなわざとらしいため息をひとつはいた。
 「 何で出て行ってまた帰らなきゃいけないんだよ ! !
   何度も言わせんな ! もうこのゲームに関わりたくないんだ、僕は !
でもそれはもう無理だからせめて罪滅ぼしとしてこ.い.つ.等.と一緒にゲームを.終.わらす !」

誰かを.殺.し.て.し.まったことが今の間崎の言葉の中に隠れていた。
せめてもの罪滅ぼしとして、ゲームを早く終わらしたい————
舞は間崎の言葉に救われたような気がした。

炎の不安定な灯の中、数秒間の静寂が包み込んだ。
香奈の声もしない、誰も声を発しなかった。

まるでその場にいる全員が、今までゲームが始まってからの自分を思い返しているようだった。

 「 うぁ.ぁ.ぁ.あ.あ.あ ! ! !」
そんな静寂を.切.り.裂.く.ように、詩音が絶叫しながら近くにあった灯油を両手で持ち、ぶんぶんと振り回した。
当然、中身は廊下のあらゆる所に飛び散り挙句の果てには舞にも雨のように降りかかる。

——その時。
ボォッと炎の音がしたと思えば、涼の足元に灯油が飛び、近くの炎で引火したようだ。
 「 うわあぁ——」
それが原因で次々に炎が燃え移りはじめた。


危機感をいち早く察した舞は、すぐにその場から離れようとしたが、そんな事を詩音が許す筈も無く
容器を逆さまにして、.液.体.を.舞.たちの周りにかける。
その時、想像をはるかに超えるようなものを詩音は自らの上着から取り出した。


ライターだ。


驚愕したどころではなく、絶句に等しい。
 「 て.め.ぇ、何.考.え.て.ん.だよ ! これは無いだろ !」
 「 詩音、待ってよ……そんなことしたら——」


冷笑を浮かべ、カチッとライターに炎を点すと、こちらの方に投げ入れた。

 「 あっ——」
カツンカツン、とライターは音を立てて廊下に落ちた。
その瞬間、ゆっくりと炎が揺らめきながら現れた。

運良く距離は四、五メートルは離れている。
これも詩音が立ち去ろうとしたから空いた距離だろう。

しかし、喜んでいる場合ではない。
五メートルなんて完全に引火するのに十分もないかもしれない。

 「 では、さようならー……」
詩音はツカツカと背を向け足早に去っていく。
その背中をただ睨み付ける事しか出来ない自分が少し腹ただしい。

  あんな詩音のことだから、一階も燃やす気かもしれない。

最悪の事態が予想できる。



一階が燃えてしまっては出ることが出来無くなってしまう。

今更ながら恐ろしいと感じた。
詩音は階段を下りたらしく、ジスだけが取り残されている。

 「 おい、どうする気だよ……これじゃあ全員、火葬される」
  駄目だ、涼はこういう時〝も〟頼りにならない……
 「 本当に不味かったらも.う.あ.そ.こしか出口が無いですよ」
間崎の指差す先は無残に割れた窓ガラス。
  あまり使いたくないなぁ……
 「 出口じゃ.ねぇ.よ ! ここ二階だぞ ! ! !」
 「 分かってますよ、でも二階程度なら.死.な.な.い.で.すよ。……多分」

その時、目の前に何かが飛んできた。

 「 わ——」

飛んできた〝それ〟は舞の顔面にあたってから地面に落ちた。



突然の出来事に呆然と立ち尽くしている。
舞以外の涼と間崎もだったようで、落ちたそれに釘付けになった。


それは水の入ったペットボトルだった。

 「 え……」

  何。


  何なの……。

飛んできた方向の舞の正面には、ジス以外の誰もいない。



しかし、本人の姿はもう見当たらない。


涼はペットボトルを拾い上げると、目を輝かせた。
間崎も嬉しそうにしている。



  よかった————

けれど舞は何か納得できないような気分だった。

  何でだろう、どうしてだろう……


ペットボトルが当たったおでこをさすりながら、舞は飛んできたほうを見つめた。