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Re: worid +狂い出した世界の歯車+ ( No.4 )
日時: 2009/09/20 10:43
名前: 玖赦 (ID: sG6XuJG6)

第二話 赤に染まる少年

歪には両親も親戚も身内は一人もいない。
いや、何者かによって殺害されたと言った方が正しいだろう。
彼の身内は全員一晩の内に殺されていた。
それも普通の殺し方じゃない。犯人は狂っている。
誰しもそう思うような殺し方だった。

しかし、歪にはその時の記憶がない。
自分が産まれてから身内が殺された時までの記憶がまったく残っていない。
彼は確かに両親に抱かれて愛されて……
しかしその記憶がない。
両親の顔すら覚えていない。
両親が殺され身内のいなくなった彼は、子供を保護する団体に引き取られていた。
彼の記憶はここからしかない。
一人で施設の部屋にいると黒いスーツを身に付けた数人の男がやって来てこう言った。

お前には“宿主”としての才能がある。我々の所へ来い。悪いようにはしない」

当時まだ九歳だった歪にはその言葉の意味は分からなかった。
その後歪は男達によって施設から離され、別の施設へと移された。
この鬼崎 歪という名前もここでつけられたものだった。
そこでは記憶のない彼に話し方などの日常生活に必要なことを教えた。
歪は一年の内にすべての事を覚え、日常生活を不便なく送れるようになっていた。

ここからが酷かった。

男達はまだ十歳になったばかりの幼い少年に、殺し方を教えた。
人を殺める方法を。
銃の使用方法、刃物の使い方、一発で殺すための方法すべてを教え込まれた。
それから歪は男達の仕事である、死刑囚の刑の執行を行わされていた。
もちろんそれから今にいたるまで歪が関わってきた人間はその数人の男達だけ。
まったく愛というものに触れずに十七歳になる今まで生きてきたのだ。
手を紅く染め、ただただ毎日血を見てきたのだった。
彼がこの学院へ入れられたのは他の人間とのコミュニケーションをとる為だった。
施設ではある程度人間と上手く関わる方法を教えられていた。
だがいざとなると今までにない状況に戸惑ってしまう。

「歪さんはなぜこの学院に?」
そう聞かれても理由はない。
ただ男達に命令されたから、としか答えようがなかった。
だが、そんな事を言ってもこのお嬢様達には何のことだか理解できないだろう。
どうしようか……。
歪は悩みこんでいた。

「お嬢さん達、ちょっとコイツ気分悪いみたいだから保健室連れて行くわ」
そう言って一人の少年が歪のことをひょいっと持ち上げ教室を後にした。
後ろから心配そうな声が聞こえた。
「な、何すんだよ……」
またも慣れない状況に戸惑う彼をその少年は地面に下ろした。
「お前、朝ぶつかっちまった奴だろ? 悪かったな。ちょっと急いでもんで」
そう謝る少年の顔を見上げた。
あの校門でぶつかった長身の茶髪少年だった。
「あ、お前……朝の茶髪……」
歪はそう呟く。
「お前、大丈夫か? さっきすごく気分悪そうだったぞ。何かあったか?」
そう聞かれても答えられず、歪は俯いていた。
「……まぁ、話せないことなら言わなくてもいいよ。俺は望月 愁(モチヅキ シュウ)だ。お前と同じクラス、席は真ん中の列の一番後ろ……よろしく」
そう言って握手を求めて手を前に出す。
「お、俺は鬼崎 歪……よろしく……」
戸惑いながらも歪は前へ手を出した。
その手を愁は優しく握った。
「!!」
初めて触れた優しい手。
こんな血塗られた自分が触れていいのだろうか。
そんなことを考えるほど、彼の手は暖かく優しいものだった。
これが歪の人生を変える
始まりだった。