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Re: worid +狂い出した世界の歯車+ ( No.6 )
日時: 2009/09/21 20:03
名前: 玖赦 (ID: 6hC8lD0P)

第四話 受け継がれる意思

音楽室に響く真広の声はとても重いものだった。
背筋が凍るのが分かる。
「本題?」
歪には真広に問う。
「本題ってのは、お前が本当にアイツの宿主かって事だよ」
いきなり宿主だのアイツだの言われても分からない。
「真広、そんな事急に言われても分からないでしょう? 説明を省くのは貴方の悪い癖」
朱羅が真広に目を向けてそう言う。
真広を見ていたその綺麗な瞳が歪へ向く。
「ごめんなさい。急に言われては分からないわよね……。説明するわ。私達が貴方をここに呼んだ理由」
そう言って朱羅は話し出した。
歪も彼女の話を静かに聞いている。
「昔、この世界を守った“七大天使”を知っているかしら?」
朱羅の問いかけに歪は首を横に振る。
「七大天使と言うのは昔、この世界を侵略しようとする“七つの大罪を犯した悪魔達”を倒した天使達のことよ」
今まで外との関わりをすべて閉鎖していた彼にはそんな宗教染みた言葉は分からない。
「七大天使というのは天使の最高指揮官ミカエル、受胎告知のガブリエル、癒しの天使ラファエル、神の炎ウリエル、神の代理人メタトロン、宇宙と神秘の天使ラジエル、大地の天使ラグエルの七人の天使達のことよ。その様子じゃ全然分からないようね?歪」
朱羅の言葉に歪は頷く。
呆れた様に真広が大きなため息を落とし、朱羅に代わって説明を始めた。
「……七つの大罪とそれに比肩する悪魔っつーのは、暴食のベルゼブブ、色欲のアスモデウス、強欲のマモン、憤怒のサタン、怠惰のベルフェゴール、傲慢のルキファー、嫉妬のレブィアタンことだ」
ずらずらと意味の分からない言葉を並べられた歪は目を点にして呆然としている。
「んー……。実際に見てもらうか。じゃなきゃ理解できねぇよな」
そう愁が言い、その直後に真広が指を鳴らした。

一瞬音楽室内が光に包まれ、眩しさに歪は目を瞑った。
次に目を開けた時、そこには見たこともない光景が広がっていた。
誰も信じられない光景が。
「嘘だろ……。こんなのありかよ」
彼の目の前に舞う白い羽。
そしてその舞う羽の先に見えたのは、
純白の翼を背中に持つ四人だった。
「これが私達の本当の姿と言っても過言ではないわ」
百合の花を手にした朱羅がそう言う。

「俺達四人……まぁ正しくは六人と、そしてお前は七大天使の意思を受け継ぐ者なんだよ」

状況を受け入れられていない歪はまだ呆然としている。
誰でも目の前に翼を持った人間が現れればこうなるだろう。
「い、いまいち状況が飲み込めないのですが……」
思わず口調が敬語になる。
額からは何とも言えない汗が止め処なく流れる。
その様子を見た愁が口を開く。
「んーっと。“簡単”に言えば、俺がウリエルの意思の宿主、朱羅がガブリエルの意思、真広がメタトロンの意思、碧がラファエルの意思を……そしてここにはいないが鎖がラジエルの意思、屡威がラグエルの意思……」

そこで一度愁は言葉を切る。

「そしてお前が……ミカエルの意思を受け継ぐ宿主だと思われる」

そう言い終わった後、室内には何とも言えない微妙な沈黙が続く。
「歪?」
俯いたまま一言も口を開かない歪に近寄り真広が顔を覗き込む。
「か、簡単じゃねぇよー!!」
歪の悲痛な叫びが放課後の校舎に消えていった。