ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 黒の惨状 ( No.1 )
- 日時: 2009/09/20 14:34
- 名前: Black Picture ◆rvP2OfR3pc (ID: AzSkpKat)
黒の惨状
−1
第二次世界大戦後、日本は武器を捨て、核兵器の無い世界、二度と次の世代の者に、あんな惨い思いをさせないと、あくまで平和を守ると形付いた。
空を近くに感じた。
なぜだろうと考えた。
答えは大地を見ると分かった。
灰色の空気が、体中にまとわりつく。乾ききった体は、何かを求めるように、まだ足を動かしていた。
見渡せば、崩れた建物と動かなくなった人間。その中を一人の少年が虚ろな足取りで地を歩いていた。
「父さん…母さん…兄ちゃん…」
彼は立ち止まり、手にずっと握っていたものを見つめた。
「みんな居なくなっちゃったよ…。俺、どうすればいいんだよ…」
乾ききった体から、細い雫が頬を濡らした。手には漆黒の拳銃。つい先日、“警察派”から召集があり、“武器”を持たされた。
少年の名は宮城秋久。十五歳の中学三年生であり、受験を控えていた。
現在日本は、二つに分かれている。そして今、内乱が勃発した。二つに分かれた国民は殺し合い、汚し合っている。ただ「考えが違う」という理由のみで。
なんて馬鹿げてる。殺し合ってまで貫き通す信念なんて存在するのか?馬鹿馬鹿しい。
でも人は人を殺した。その事実を、「馬鹿馬鹿しい」などと片付けられない。
秋久は、ビルが崩れた為か、空がよく見えるようになったと感じた。
ぼうっと空を仰ぎながら、すべての事の発端である三年前の事件について思い出していた。
楠木優次という当時五十八歳の政治家がいた。彼は、支持率も高めであった幸民党の党首であり、次期内閣総理大臣も夢ではないと言われていたほどだった。
しかし、選挙前の熱弁中に、銃で撃たれ暗殺された。その場がパニックになり、見飽きるほど連日の一面はその件でいっぱいだった。
そして妙な事が起こり始めた。
後日、警察がマスコミ向けに会見を開き、政府が核兵器の開発を進めているとの衝撃の事実を述べた。その事を知った警視庁は極秘で政府に乗り込んだ。が、政府の連中は聞く耳を持たなかったらしい。さらに調査を進めていくと、幸民党に在する議員が、とうとう口を割った。中心となる人物は党首である楠木優次であると。
警視庁は怒りに震え、この真実を国民にどう形付けて報せるか?国民の半数が信頼を寄せている楠木優次を、一気に絶望の象徴とさせる方法とは。
そして暗殺に至った。
警視庁の最高責任者は庁に所属し、関わった者全員が刑務所行きとなったことは言うまでもないが、彼らは進んで行ったのだという。移動時のマスコミのマイクに向かって「我々は間違った事はしていないと解釈している。しかし事実も事実だ。一生かけて国民の為に“罪”を償っていくと」。そう語った。
そして徐々に国民は薄っすらと二つに分かれていった。
『警視庁の奴らは英雄だ。政府と違って、自らの罪を隠したりせず、泥をいくら被っても曲がったりしない。感動した。』
『人を殺して何も反省していないなんて人間じゃない。楠木さんの話を聞くべきだった。それなのにあんな残虐な現場を見せびらかすように。』
核兵器の開発を行っていたのではなく、もしもの時の為に、知識を手に入れる為だと浅い説明をいれ、楠木党首の暗殺の件にばかり力を入れる政府と、政府に対していく一方で、日本に武器を輸入するという行為も行う警察。
政府派と警察派。日本はこの二つに分かれた。
やがて騒動はエスカレートしていった。
警視庁が全滅したことによって、神奈川県警が中央で指揮を取るようになったが、政府側はそれを許さず、新しく庁を作り直すといった。が、警の事は自分らで決めると完全に政府と縁を切った。
それからは殺し合いが立て続けに起こった。まず埼玉県警の新米刑事が自宅で何者かによって殺された。かと思うと厚生労働大臣がまた何者かによって殺されるという事件が勃発。それの繰り返しだった。
そして段々と抗争の輪は広がりを見せた。
正式に「政府派」か「警察派」かの所持を受け、学校や職場までもが分かれた。だんだんと国民の不安も高まる中で、どこか皆、覚悟を決めたような雰囲気を漂わせていた。
- Re: 黒の惨状 ( No.2 )
- 日時: 2009/09/20 14:37
- 名前: Black Picture ◆rvP2OfR3pc (ID: AzSkpKat)
>>
じわじわと、日を重ねるごとに殺しは増えていった。
秋久はそんな世に不安を感じつつも、どこか他人行儀な気持ちしか持ち合わせていなかったある日のことだった。
忘れもしない、あれは先月の頭だった。
「警察派」に身を置く秋久に、通知が届いた。その通知を、母親と一緒に父の仏壇の前で読みあげていった。驚きで声も出なかった。
十五歳の秋久に、徴兵令が下ったのだ。
一ヶ月訓練を受け、訓練が終わり次第、武器を持ち戦うのだと。なんの冗談だと最初は訳の分からない笑いが出てきたが、通知が届いた三日後には役人が訪れ、一ヶ月の訓練を受けるのだと書いてあったことを何度も読み返した。
家族にも会えず、ただ一人、訓練に励むのだ。
馬鹿馬鹿しい。なんの冗談だ。今は平成だぞ——。秋久は動揺を隠せなかった。兵としてなど行きたくなかった。父親も早くに他界し、兄も居ないのに、母を独りにするのは、なんとも心苦しいことでもあった。それに何より、イコール人を殺すということなのだ。秋久は血を見るだけで顔も青ざめてしまう性分であり、とても「向いて」いるとは思えない。周りの話を聞くによれば、十五で徴兵が下ったのは、この辺じゃ聞いたことがないという。
なぜ俺が。
その思いは消えなかった。行きたくなかった。通知には、拒否をしても受理できないとあるが、本気で断り、やむを得ない事情があったケースなどは、進んでは連れて行かないとも聞いている。
それでも秋久は兵として行こうと決心付いた。
秋久の兄——。智久は、警視庁に所属していた。元々あまり連絡が取れていなかった為に、あの事件があってから何もかもが途絶えていた。県警の方に連絡を取ったが、その事に関しては何も言えないと口を固く閉ざした。「警察派」に属したのも、ただ兄が警察だったのが理由だった。
兄はどこに居るのか。秋久はそれを確かめたかった。
三人の役人が、大きな車に乗ってやって来た日、母は泣いた。秋久はいつも家を出るときにやる習慣である、父の仏壇の前にある顔写真を拳で軽く突付いて、家を出た。
訓練を受け、武器を持たされても、絶対人を殺すものか。
そう誓いを立てて。