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- Re: 黒の惨状 4話目up ( No.16 )
- 日時: 2009/10/21 21:31
- 名前: たきばね ◆rvP2OfR3pc (ID: AzSkpKat)
五話
「…いや、なんでもない」
老人はそう言って、きつく瞳を閉じ、ソファに深く腰を降ろした。
「…!なんだよ!言ってくれ!宮城智久だろう?そうなんだろ!」
秋久の心臓は大きく高鳴る。皐月はなぜ秋久が興奮しているのか、理解できなく、状況についていけなかった。
「…勘違いだったようだ。俺は宮城智久なんて奴は知らないな」
「……!」
秋久の心臓には、色々な感情がぐらついていて、今にも壊れてしまいそうだった。
「宮城くん…?とにかく、落ち着こう?ね?」
皐月は気をつかって、秋久をソファに座らせた。
それから秋久がしつこく聞いても、同じ答えしか返ってこなかった。
状況は落ちついたが、秋久と老人の間は微妙な空気が流れていた。
「…聞いてもいいかな」
ソファで眠りについたはずの皐月が口を開く。外はすっかり暗くなっていた。向かいのソファには老人が身動き一つせず眠りについている。秋久は皐月のソファの裏で、床に横たわっている状態だった。
「なに」
無愛想に返答する。老人との口論の余韻が残ったままだった。
「なんで宮城くんは警察派なの?」
皐月は少し間をおいて、小さな声で「別に無視してもいいから」と付け足した。
「…兄ちゃんが、警察だったから」
答えたくないわけではなかったが、言い難いと感じていた。誰にいってもリアクションに困る答えだ。
「理由はみんな、単純なのにね」
意外にも皐月は息詰まるような事もなく、あっさりと言った。
「それがどうかしたか?」
皐月は起き上がり、ソファの裏を覗いた。仰向けに足を組み、両手を頭の後ろに組んでいる秋久と、いきなり目が合う。
「…!なんだよ」
さすがに無防備な格好だったため、反射的に顔が赤くなる。そんな秋久を見て、皐月はおじさん臭い声で笑った。
「ぶはは!いやあ、普通にコドモなのにね。私達」
「……」
「でも今は、コドモじゃない気がする」
「子供だよ」
「え」
皐月はじっと秋久を見る。秋久は間抜けな顔で、皐月を見返す。
「…宮城くんはそう思うんだ」
「え…?いや、違う!今のは俺じゃない」
「え?」
確かに今の声は。秋久ではなかった。
皐月は後ろを向き、反対側のソファで眠る老人を見た。
「………」