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Re: 黒の惨状 六話ー続き ( No.30 )
日時: 2009/12/05 15:02
名前: たきばね ◆rvP2OfR3pc (ID: AzSkpKat)

 引き返していると、こっちに向かってくる皐月の姿があった。お互い驚いた顔で駆け寄った。

 「あの…ごめんなさい。遅いから、私も心配になっちゃって…」
 「いや、別にいいよ」
 「喋ってる暇はない。いいか、よく聞け」

 皐月は老人が急かすのを聞いて、眉を顰めた。老人は気にせず説明をする。

 「今から急いでここから離れる」
 「え…?」

 老人は一言そう言った。皐月はまったく理解していなく、間抜けな顔をする。

 「おい…ちゃんと説明しろよ」

 老人は秋久の言葉を無視し、何も説明しないまま、歩き出した。

 「着いて来い」

 二人は顔を見合わせ、同時にため息をついた。仕方なく、黙ってついていく事にした。
 裏通りをくぐり、複雑に道を通っていく。秋久はここの住人ではないため、どこへ向かっているのかさっぱり解らなかった。

 「ねえ、ここを離れるなら大通りを出た方がいいわよ?なんでこんな大回りするの?」

 皐月は老人に疑問を投げかけた。

 「お前、説明してやれ」

 老人は前を向いたまま言った。皐月は秋久を見る。
 結局俺が説明するのか、と秋久はため息をついた。

 「なんか…大通りに大砲みたいなものがあって、たぶんそれでここを滅するんだと思う・・・って老人が」

 皐月は口を開けたまま黙ってた。いわゆる「ぽかん」という表情だ。

 「説明下手だな」

 老人は言った。説明さえしない老人に言われたくないと秋久は思った。

 秋久は一言多い老人に噛み付く。

 「滅する…?」

 皐月はその意味がまだ理解できていないようだ。いや、未だに秋久にも理解し難い事だから無理はない。

 「凄く大きくて、映画なんかで見るようなやつだった」

 なるべく皐月の思考が現実味になるように、イメージさせようとした。皐月は瞼を少し下げ、吐き捨てるように言った。

 「そんなことが…今の日本で有りうるの…?」

 信じ難いようだ。いや、信じたくもないだろう。

 急に弱気になる皐月。溜めていたものを吐き出すような感覚がはしる。しかしそれでも皐月は、心の中の不透明な実態を、何度も何度も飲み込んでいる気がした。

 「弱気になるな。今ある選択肢は二つ。生きるか死ぬかだ。だったら生きた方がいいだろう」

 途中でみた、大量の死体の山。秋久は身震いした。

 「二つにして一つ、か…」

 秋久は苦笑する。老人も振り向き、笑った。

 「弱音言ってごめんなさい。行こう」

 皐月は前を見据えた。老人は再び歩みを速める。