ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 黒の惨状 二話目up ( No.5 )
- 日時: 2009/09/22 14:48
- 名前: たきばね ◆rvP2OfR3pc (ID: AzSkpKat)
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「お礼を言うべきですか」
少女はまだ警戒の姿勢を崩してはいなかったが、秋久のもとへ駆け寄ってきた。
「…早く逃げろ」
秋久は目の前に横たわる「同胞」をじっと見ていた。人を殺した、人を殺した——。その事実を焼き付ける為に。
「血、かなり出てますね」
少女は秋久の腕に目をやる。警察派の兵士という目印である長いフード付きの白いコートが、血で染まっていた。
「止血剤、ありますけど。良かったらどうですか」
秋久はゆっくりと首を少女の方へ向けた。同い年か、それより下かくらいに見える。腕には多少の傷があるが、包帯などが巻かれている部分があった。少なくとも治療道具を所持していると思われる。
秋久が何も応答をいれないでいると、少女の方から手を引っ張ってきた。
「早くして下さい」
抵抗するほど精神的に力もなく、秋久は建物のなかへ連れられていった。
倉庫のような小さな部屋だった。
六畳半ほどの部屋に、ほこりを被ったデスクと、簡単なソファーが三つ並んでいる。古いが、テレビなどもあった。電気も微妙な明るさだが、ついていた。
先ほど居た老人が、ソファーの上で横たわっていた。下を向いているので、またしても顔が見えない。秋久は老人の向かい側のソファーに腰掛けた。
「ちょっと染みるかもしれませんが、消毒液塗りますね」
少女はそう言って、タオルにたっぷりと消毒液を垂らす。ちょっとどころか、かなり染みる。秋久は思わず小さな悲鳴を上げた。だが少女は動じる事も無く、容赦なく進めていく。
「…はい。応急処置ですが、かなり楽だと思いますよ」
秋久の腕に、白い包帯が巻かれた。少し血が滲んでいるが、かなり抑えられた。ここは銃声音も叫び声も聞こえないおかげか、秋久の心も少し落ち着きを取り戻していた。
「…ありがとう…ございます。気分的にも楽になりました」
「それは良かったです」
少女は手馴れた様子で笑顔を見せた。