ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 黒の惨状 3話目up ( No.9 )
- 日時: 2009/09/30 21:41
- 名前: たきばね ◆rvP2OfR3pc (ID: AzSkpKat)
四話
「助けただなんて、そんな」
秋久は謙遜するが、少女は真っ直ぐな瞳で、どこか遠くを見るような表情で言った。
「私の名は、高岡皐月と言います。十五です」
「俺は、宮城秋久。俺も十五だ。偶然だな」
同じ年齢と言っても、状況が状況であるから故、実感が沸かなかった。秋久は学校でも女子と話すタイプではなく、同級生ともなれば一緒に居るのも耐え難い空気になるのだが、皐月に対してはあまり感じられなかった。
「なんだか…同級生って感じがしませんね」
皐月は年齢を知って尚、敬語を続けた。相手もそう思っているらしい。
「そうだな。でも敬語じゃなくていい」
そういうと皐月は苦笑した。最初は、どこにでも居そうな覚えにくい顔だと思っていたが、それなりに美人といえるような顔つきだった。傷だらけではあるが、清潔感があった。十五にしては、百五十三、四センチメートルくらいの、小柄な体格だ。
「…十五か…」
不意に声が聞こえた。低く、今にも消えそうな声で、この静寂な空間に、ぽつんと響いた。
「おじさん、具合はどう?」
皐月は向かい側のソファーに横たわる老人のもとへ駆け寄った。俯いていた老人が顔をあげ、秋久は始めて老人の顔を見た。足取りからして、かなり老いていると思ったが、顔つきからは六十前後だと考えられた。しかし、目が虚ろで、「元気に生きている」という人間ではなさそうだった。、髪は深い黒で、ホームレスのようにごわごわしている。一言でいうと、「恐い」という印象だった。
「そんな若いもんを戦場に出さなければならないとはな…警察派の手駒も最早限界か?」
皮肉のようにも聞こえる口調は、秋久に対してだった。
「おじさん…」
皐月は少し呆れるようにため息をついた。老人が持つ「恐さ」も、華の十五歳の皐月と並んでいると、なんとも奇妙で、それでいて「恐さ」も抑えられていた。
「どなた…ですか」
老人の「恐さ」に呑まれそうになりつつも、声にビビリを出さずに出来た。老人は秋久をあからさまに睨む。
「あ、宮城くん、こんな仏頂面だけど、怒ってるとか機嫌悪いとかじゃないの」
「え?」
思わず間抜けな声を発した。
「俺は本当に機嫌が悪い」
老人は低い声でいう。皐月は困ったように二人を交互に見た。
「おじさんもそんな事言わないで」
皐月は老人の母親のようにいう。老人は面白くなさそうな顔をし、黙っている。何も言おうとしない老人にまたため息をつき、皐月が口を開いた。
「このおじさんと私は、血が繋がってるわけでも、知人ってわけでもないの」
秋久はまた驚いた。そういえば先ほどから、老人の名が出ていない——。
「政府派が攻撃を始めてすぐ、警察派も攻めてきた。とくにこの地区は、政府派の警備も厳重じゃなくて、警察派のやりたい放題になってしまって」
秋久は外の現状を思い出す。崩れた建物、倒れる人々、灰色の空気。云十年前の第二次世界大戦を見るようだと誰かが言っていた。
「…やっぱり思ったより酷いんだな。こんな事になってから行動範囲が狭まって、外のこととかが分かりにくくなってる」
皐月は頷く。
「一夜にしてこの地区は壊滅状態…世界大戦から戦争の技術っていうのは進んでるものなんだね…」
皐月は自分の腕についている傷を撫でた。悲しそうに、俯く。秋久は彼女に目を向けているのは辛くなり、反射的に老人の方を見た。丁度、老人も秋久の事をじっと凝視していた。秋久は驚き、思わず声を発する。
「な、なんですか」
そういうと皐月も顔をあげ、老人の方を向いた。
「……いや。ちょっと似ていたものでな」
「似ている?」
皐月が興味深そうに声を出した。最も秋久自身が一番驚いていた。
「誰に…ですか」