ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re:       紅—血染め、崩壊の生活。— ( No.10 )
日時: 2009/10/17 21:30
名前: 琉絵 ◆l8pbXGbvPw (ID: kVKlosoT)

第1章   —360度回転するきっかけ—




「……軋間流羽か。コイツが、ターゲット?」
「そう、それじゃファル行って来てね」
「へーい」


意気揚々に走り去った少女——ファル。
橙色のサンドバイザーを被り、短めの髪を持つ小柄な少女は外出した。



*


「……へぇ、あいつが“軋間流羽”か」


彼女は彼が歩いている商店街の一角にある、寂れたゲームセンターの中から観察していた。
彼女の姿は、先ほどの姿とは違った。


身長を高く見せる為か、ヒールの高いブーツを履いている。
サンドバイザーのかわりに、帽子を被っている。
そしてショートパンツと白いTシャツを着ていた。


今は秋なのだが、彼女にとって寒さも暑さも関係ないらしい。



「最近のお気に入りのブーメランでも投げるか……チッ、女と一緒か。今殺そうと思ったのに」



小学生にしか見えない少女の言葉とは思えない。
実際彼女は中学生だが、身長の小ささから小学生としか見れない。


「……」



彼女はゲームセンターから出て、彼等の後を追い始める。
彼女の耳に会話が聞こえて来た。



「バイト無いの?」
「……うん」
「何のバイト?」


ファルは耳を動かす。
口元に卑しい笑みが浮かぶ。


軋間は口を開いた。


「……ホスト」
「軋間のこの顔ならモテそうだよねー」
「……店長にはバレてる……でも結構ご指名が入るからとか……で先週1位を取った……」


ファルは裏道に入り、軋間に狙いを定める。
ブーメランをファルは投げようとする。
しかしその手は止まった。









「凄いじゃん! 軋間の家に泊まって料理作る!」
「…………ありがと」




彼女の楽しそうな表情と、彼の嬉しそうな表情。
それを壊すこと——彼を殺す事が出来なかった。



「……何で……だ? いつもならあんなのぶっ壊そうと思うのに……どうして、殺せないんだよ、あたしにはっ!!」



彼女はブーメランを近くにあったゴミ箱に投げ捨てた。
そして彼女は蹲る。


「あいつ等……を、殺す事……できねぇよ。何でだよ……」



彼女は呻くように言った。



*



「美味いな、これ」
「おー、そうか? つか喧嘩すんなよ」


錐磨がコーンポタージュを飲んでいる中、喧嘩はまだ続いていた。
ウィザークはテリカと刹浬に言い捨てる。


「うるせぇ、この女が悪いんだ!」
「そもそも言ったのは、そっちでしょ!?」


大声で喧嘩をしている。
はっきり言って、ウィザークと錐磨にとっては五月蝿いであろう。


錐磨は刹浬に言った。


「刹浬、ほら」
「……」


刹浬は喧嘩をやめた。
そして錐磨から渡されたコーンポタージュを受け取る。
渡されたコーンポタージュをゆっくりと飲む。


「……温かい」
「だろ? ほら、テリカもやめて飲もうぜ」
「チッ」


舌打ちをしたテリカは勢い良くコーンポタージュを飲み干そうとする。
しかし熱々のスープの為、火傷をしかねない。


「あっっぢぢぃぃぃ」
「アホだなテリカ……」



錐磨は呆れながらそう言った。

Re:       紅—血染め、崩壊の生活。— ( No.11 )
日時: 2009/10/18 12:10
名前: 琉絵 ◆l8pbXGbvPw (ID: kVKlosoT)

*


「……此処が……ターゲットの家……」



何処にでもありそうな一軒家の門の前。
其処にファルは立っていた。
あの後も尾行した。



しかしこの一軒家の雰囲気がおかしい。
温もりが無く、ただ悲しみが残っていそうなこの家。



彼に一体何があったんだ?



その時、近所に住んでいるらしい40代以降の女がファルに話しかけた。


「あら、流羽ちゃんのお友達?」
「!? い、いえ。……ちょ、ちょっとこの家の雰囲気がおかしいから」


すると女は悲しそうな顔をした。



「……流羽ちゃんはね、家族を失っちゃったのよ」




         —失った—




何で失ったのだろう?
ファルはその事に対して、好奇心を見せる。



「……どうしてですか?」
「交通事故よ。それも悪質な……慰謝料も降りたんだけど、彼にとってはそれよりも家族が戻って来てほしいんでしょうね」



……そうなのか。
あいつの背中は何か……あ、そうだ。
“哀愁”が浮かんでいるって感じだった。


女はさらに話す。



「でも、彼女が出来たのかしらね? それから少しだけど楽しそうな表情を浮かべてるのよね」




あの女か……
栗色の長い髪に、瞳も栗色の……




女が立ち去った後、ファルは複雑そうな表情を浮かべた。



「……殺せねぇ……いくら何でも……あいつの大切なモノを奪う気になれねぇよ」



ファルは涙を流した。
普段ならもう殺しているのに、何故か今回のターゲットを殺す事は出来なかった。


唇を噛み締めている為、血が流れる。
それに構わず、ファルは嗚咽もあげずになき続けた。


「殺されたくないが、もっと嫌なのは……」


ファルは立ち上がると、軋間の家へと振り向きながら言った。









   「アンタを壊したくない……」





しかしファルは目を瞑りながら考えた。
こんな事、許される筈が無い。
気持ちを知らせたら、きっと誰かが軋間流羽とあの女を一緒に殺すに決まってる。
“氷の刀使い”は絶対に殺すに決まってる。
“馬鹿娘”にも当たったら、もっと危ない。



その時、彼女の肩を叩く者が居た。



「ファル? 何で泣いてんの?」




ビィナラだった。

Re:       紅—血染め、崩壊の生活。— ( No.12 )
日時: 2009/10/18 20:26
名前: 琉絵 ◆l8pbXGbvPw (ID: kVKlosoT)

*


「な、何でもねぇよ!!」


ビィナラは不思議そうにしながらも、歩いて行った。
ファルはまた座り、頭を抱え込む。
どうすればいいのだろう。
彼を救うにはどうすればいいのだろう。
殺さずに済む方法など、紅葉には無い。


その時だった。
彼女の視界がさらに暗くなる。
不審に思い、彼女は顔を上げた。
其処には向かって左側がセミロング、右側がショートと異端な髪型をした女性だった。


パンク系の服を着用し、カラコンを入れているのか瞳は紫だった。


「……んだよ」
「何で泣いてるの?」


コイツは——殺し屋なのか?
普通こんな髪型にしないだろ……


女性は微笑みを浮かべていた。——屈託の無い笑顔を浮かべて。


「もしかして、嫌なの?」
「何がだよっ」


明らかに年上に見える女性に対して、敬語口調も無く罵声を浴びさせるファル。
女性はそんな事も気にせず、彼女にとっては見透かされたような言葉を言った。




           「殺したくないの?」




ファルは思わず固まった。
この女は何だ?
何であたしの考えを読める事が出来たんだ?
おかしい、この女……


「当たってる? この家の人でしょ?」
「何で、あたしの考え…」
「殺し屋でしょ? 貴方。“海”と同じ紅葉?」



海……?
何で紅葉を知ってるんだ?


ファルは“海”と言うキーワードに、ある人物を思い浮かべた。
それは——ある人物。



「通称……お前は、知ってるのか?」
「知ってる。紅葉の事については、海から聞いていたの」
「“手段を絶対選ばない者”か?」



女性は笑った。
ファルはその笑みに「当たりなんだ」と呟いた。


「海との関係は、“恋愛”」
「へっ? ままま……マジっすか!?」



思わず驚きはためくファルに、女性は笑みを浮かべた。
そして女性は言った。



「私は、池田嬬浬。——今回は身を引いた方がいいと私は思う。この家の人を殺すのは、無理があるわよ」








意味深な発言を残して、嬬浬は遥か遠い道へと消えて行った。