ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re:       紅—血染め、崩壊の生活。— ( No.16 )
日時: 2009/10/23 19:35
名前: 琉絵 ◆l8pbXGbvPw (ID: kVKlosoT)

*


   どうして
   此処は何?
   この世界は何


*


「何ですか? 凄く邪魔です」


敬語口調で喋る女は笑顔を絶やしている。
女の正面に立つ男は、長い布を被っている。
顔も分からず、表情も分からず。
何もかもが分からない男。


横で結んでいる薄い桃色の髪は、少女が動き出した事によって靡く。
少女は笑いながら男に剣を振り上げる。


しかし少女は大量の血を吐く。
男は少女の鳩尾を大きな拳で殴ったのだ。
そしてその拳には光が宿っていた。


光は少女を吸い込んでしまった。
残ったのは、少女の血。
男は少女の血に対して言った。


「私は、この世界の者では無い。あの異世界へと連れ込む番人だ」


そういい残して、男は消えた。
一瞬にして消えてしまった。


*

次の朝。
燐は眠っていた。
昨夜の仕事で疲れ果て、栞の家で眠っていた。


栞は燐の髪を撫でながら、テレビを付ける。
テレビはニュース報道。
しかし栞の表情は変わった。


『次のニュースです。昨夜、○○区○○町の通りで吐血したと思われる大量の血、そして被害者と思われる桃色の髪の毛が発見されました。警察は殺人事件と見て操作中——……』


栞はリモコンでテレビのスイッチを切った。
そして燐をたたき起こす。


「うっせーな……んだよ?」
「ねぇ、薄い桃色の髪の毛と大量の血が発見されたんだって……」


燐は眠そうに栞にもたれかかる。
そして呻くように呟いた。


「……あー、それ……アイツ……?」
「アイツって誰!?」
「“馬鹿娘”……ねみぃ」
「じゃあその人襲われたのよ……きっと、きっと」
「栞? お前、どうしたんだよ。アイツがそんな簡単にやられる筈ねーし。笑顔を絶やしてるんだぜ? ありゃあ不気味で幽霊も顔負け……」


しかし栞は蒼白した顔で首を横に振る。


「だ、だって……ニュースで言ってたのよ! 殺人事件としてって」
「……へ?」
「○○区○○町だって……」


燐は目を擦りながら言った。


「俺はアイツと関わってないし、さらに俺は記憶力ねーし。……メール?」


燐はズボンのポケットから、赤色の携帯を取り出す。
携帯を開いた瞬間、燐は固まった。
ある内容のメールで。











        “馬鹿娘”が行方不明になった。









紅葉で起きた最初の行方不明事件だった。

Re:       紅—血染め、崩壊の生活。— ( No.17 )
日時: 2009/10/24 10:40
名前: 琉絵 ◆l8pbXGbvPw (ID: kVKlosoT)

*


   此処の世界へおいで。
   ある事が目的なの。
   次の招待客は誰にしようかしら?


*


「嘘っ! あの“馬鹿娘”が行方不明って!?」
「ボス、話を進めてもらえません?」


ビィナラが興奮したまま、驚く。
それを無視して、緑と赤の無地長袖とズボンを着用しているファッションセンス壊滅の少年は言った。


「ボス」と呼ばれた男は、口を開く。



「多分“馬鹿娘”は仕事の帰りだった筈だ。実際事件が起きた場所が、仕事場所だったしな……」
「どうやって消えたんだ?」



カケルは腕組みをしながら、飴を口に入れる。
どうやら喉が痛いらしく、その喉の痛みを和らげるためにのど飴を食べている様だ。


「分からん。目撃者も居ないし……それに俺達は関わってはいけない」
「つまり、見放すって事ですか?」


ビィナラが目を細くしたまま言い捨てる。
ボスは頷く。だが、ロィラが言った。


「……探す権利ならありますよね? 警察に見つからないように」
「危険も伴うぞ。捕まったらおしまいだぞ」
「……大丈夫です。どこかの誰かさんみたいに、慌てて逃げるのとは違いますから」



それは誰の事を言っているのだろうか。
ロィラは髪を掻きながら、マリンブルーの瞳を持つ身長の高い少女を指差す。


「……勘強いですよね? この人」
「…あ、そうか。イーラ、分かるか?」


イーラは無表情のまま、艶々とした唇を開く。
手には何かを縫っていたらしく、裁縫用の針を持っていた。


「…………此処には居ません」
「は?」


燐が怪訝そうにそう言った。
しかしイーラは同じ事をまた言った。


「…………此処には居ません」
「いや。此処では無く——」


ボスの意見を遮って、イーラは言った。
















              「…………この世界には、居ません」












意味深な発言を、彼女はこの場所に残した。