ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re:       紅—異世界と現実人間の生活。— ( No.5 )
日時: 2009/10/05 19:42
名前: 琉絵 ◆l8pbXGbvPw (ID: aza868x/)

序話Ⅱ



「……」


ポニーテールを靡かせながら、アオはマンションのベランダを渡っていく。
その姿は忍者の様である。


「……依頼者は貴方?」
「うわぁっ!? う、嘘……ほ、ホントに“紅葉”は居たんだな……」
「兄貴……どうやってこの人……移動してきたんだろうね?」


明るめの少し癖がある茶髪の青年。
そしてこげ茶のこちらも癖がややある長い髪の少女。


「——私は……“アオ”」
「アオ……? それが本名なのか?」
「……依頼は何?」


アオは質問を無視する。
最優先する事は“依頼”だ。


「……あ、あぁ。——コイツ見た事無いか?」


アオは青年から差し出された写真を見て、怪訝そうに見る。


「……小説家?」
「やっぱり知ってるかっ」
「——……気持ち悪い風貌でよく覚えてるから……本性はこれでしょ? 調べてきた……」


無精ひげを生やし、さらにボサボサの髪。
今の時代には似合わない、牛乳瓶の様なメガネを掛けている。
しかしこれは本性で、世に見せている素顔は、とてもイケメンだ。


「——内容は?」
「コイツは、あたしの原稿を奪ったんだよっ」


アオは少女へと視線を向ける。
少女は涙目になりながら話し始める。


「あたしは、小説家なんだ。こんな風貌でも……でも、新作を発表しようとした時に……ひっ……うっ……」
「俺の父親がコイツの知り合いなんだよ。——そん時に葵の原稿を勝手に盗んで、発表しやがったんだ」
「……また作って出したからいいけど……でも、でもあいつはこう言ったんだよ! あたしに会った時」


少女は泣きながら言った。


「“お前の小説は俺の物なんだよ。お陰で俺は有名になった”って……酷いよ……あたしの小説は、必死で考えて一生懸命作って、たくさんの人に読ませたい……それなのに、あいつは自分の名誉を大事にしたんだ! あたしは、あいつだけは許せない!」
「俺も恨みがある。——あいつは、以前にも母さんが作った漫画のプロットを盗み出して、それを勝手に使って作品を作り上げたんだよ……だから、許せない! あれは母さんが、努力した奴なのに……」


アオは両目を閉じた。
そして何かを考え込む。やがて両目を静かに開き、艶々とした唇を開く。


「……その依頼、受けるわ」
「ほ、ホントに……!?」
「でも」
「?」


アオは深呼吸をして、言った。


「“紅葉”は恨みを晴らす。その為に人を殺す事も出来る……しかし、代償がある。——その代償は、貴方達の大切なもの」
「あたし……達の?」
「……物なのか?」
「……何でもいい」


青年は考える。
5分ぐらい時間が経った時、青年は口を開いた。


「それじゃ……万年筆」
「——?」
「これ、俺の親友のなんだけど……アンタが使ってくれ」
「……何故私が?」
「俺の大切な物。——俺が許した人に使わせろって遺言がある」


アオは金色に輝く万年筆を受け取る。
その万年筆を月光に照らしながら呟く。


「——……分かった。小説を書く文章能力は無いけれど……日記を書く時に使わせてもらう……貴方は?」
「あ……あたし……い、命だけは嫌……兄貴だって……でも、大切なものって……」



アオは少女を見つめる。
未だに彼女は鉄の柵に座っている。
そして彼等が立つベランダの上に立ち、少女の頭を指差す。


「え!?」
「——私の刀で、貴方の髪を切るわ。それを“代償”にする」


そう言って、アオは少女の身体、頭に傷が付かないように髪を切った。
髪は床に落ちる。
少女の髪は短くなっていた。


「え……い、いいの、こんな代償で!!」
「——身体の一部だと凄く可哀相だから。——さて、今から殺しに行くわ」


そう言って彼女は、ベランダを渡って行った。