ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: MAGOSU-始まりの心- ( No.1 )
- 日時: 2009/10/04 12:48
- 名前: J*A*M ◆UB7kDnf7Bo (ID: ErINZn8e)
第1話「朝焼けの炎」
「ちょっと! 兄さん! そっちは違うって!」
息の切れそうな声は途中少しかすれた感じだ。
ハスキーとでも言うべきだろうか。
「あぁ! わかってる! でもいっぺん殴り飛ばさないと気がすまねえんだ!」
弱々しい声にそっくりなその声はやはりハスキーだが凛とした、輪郭のある感じがする。
朝の静かな草原に2つの影はあった、まだ少し霧のかかった水っぽい時間だ。
緑に生い茂る川と小道の間の芝生で朝のいつもと違う風景が漂っている。
ドカドカと力強く前を目指す足。
まるで歩いた跡をつけるかのように芝生をつよく踏みつけている。
それを追うように小幅で小走りに追いかける足。
倒れる芝生はゆっくりと起き上がっては2つめの足に勢い良く踏みつけられた。
いつもとなんら変わらない晴天の朝の川のほとり。
背後の草原の影は次第にほとりのほうへ降りて来る。
緑と川と羊に囲まれた村で
ある少年は怒りに燃えていた。
まるで少年を宥めるかのような羊の鳴き声さえ耳に入らない。
「兄さん! やっぱりこんなこと……」
そう言うと同時に2人分の足は戸惑うように歩調を崩す。
「離せ! イリスは家に戻ってろ!」
イリスと呼ばれる小幅の足はそれと同時に少しふらついた。
そしてイリスの掴んでいた腕もするっと逃げるように振り払われた。
「……兄さん」
「ったく許せねえ! イリスがドチビでチキンなの知ってるくせに俺が黙ってられるか!」
兄さんと呼ばれる少年は眉間にしわを寄せヒステリックに叫ぶ。
「あっ! 兄さん……」
そういってドカドカと一人分の足は先に行ってしまった。
止めようとふいに差し出した手は一瞬ためらうとため息と共に地面に落ちた。
そしてイリスの表情はどこなしか嬉しそうに微笑するのだ。
「兄さん、ドチビは人のこと言えないよ」
イリスはドカドカと歩く兄の背中を見て小さく笑った。