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- Re: MAGOSU-始まりの心- ( No.16 )
- 日時: 2009/10/04 13:09
- 名前: J*A*M ◆UB7kDnf7Bo (ID: ErINZn8e)
第2話「着けば都」
今2人はまさに旅立ちにふさわしい心構えだった。
早朝の清々しい風とは別に殺風景な村を背に2人はマルクス村を離れた。
ヒバリのいつになく険しい表情がこの数日間の悪夢を忘れさせないようだ。
その横でイリスは抜けきらない何かを追い払うように眉を凛々しく上げる。
「おーし、これでしばらくは眠れるな」
気の強さは身長にも負けないようだ。
ヒバリは音を立てて少し固い汽車の座席に腰を降ろした。
大の字に伸びて窓の外を眺める表情は一瞬だけ曇る。
「もぅ〜ボク達は遊ぶんじゃないんだよ?」
その向かいでイリスは口をとがらせて文句を言う。
ヒバリの心境を読んでのあえて気の使わない言葉はイリスらしさが出ている。
これがいつもの調子だ。
「あぁ、わかってるとりあえず、都に行って西の魔女とやらの情報を手に入れないとな……地図も何も燃えたんだ情報がねえんだ」
そう言ってヒバリは両手を広げて大げさにイリスに構う。
「……ったく無計画性の兄さんには呆れちゃうよね」
別に驚いた様子もなくイリスは目を座らせ、小さくため息をついた。
2人はそれ以上会話はなく、ただ通り過ぎて行く景色を眺めている。
そうだ。
あの晩の件で今、こんなに元気になれるわけがない。
お互いに隠す心はきっと同じ位の闇にうずまっているのだろう。
村は燃えた。
そう、跡形もなく……。
これが現実だった。
誰もが目を背けてはいけない現実だった。
間もなく汽車は発車する。
何の前触れも無く、いきなり襲撃され、父と母は無惨な姿になった。
少なくとも、原型をとどめていなかった、あの火で仕事場が爆発でもしたのだろう……。
あの書庫から出れば遺体は消えていて、残ったのは焼け跡の残骸……そして血の跡だった。
手にもった本が重苦しく何かを語っている。
ヒバリは本をパラパラとめくってすぐに閉じる。
「なぁ、イリス」
ヒバリは外を見つめながらゆっくりとまばたきをする。
「なんだい兄さん」
同じような顔でイリスは答えた。
「……もし俺達が離ればなれにならないといけなくなる」
しばらく2人の間に沈黙が走った。
イリスは目線をヒバリに寄せる。
「なんだよ……急に」
少しむきな声のイリスはすぐにヒバリから目線をそらす。
「もしもだ」
ヒバリは言葉を強調する。
「……うん」
いつになく思い老けたヒバリは念を押すように姿勢を正した。