ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: chain ( No.3 )
日時: 2009/10/15 19:23
名前: 愁 ◆5Mxsc4j.YA (ID: uQH0nqZ2)

 君たちは、連鎖という言葉を見てどのような物を連想しただろうか。

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 神歴しんれき一〇三四年。
 強力な武器を手にした国々は他の国に領土を広げるべく争いを始めた。一日で万を超える人々が息絶えてゆく中、平民はその争いから目を背け、錬金術、魔術へと手を伸ばした。
 紛争の地域から少し外れただけで、街にはいかにも怪しい薬草や護符が大量に並んでいる。
 街の中には、錬金術師を志す者と魔術師を志す者があふれ、此処でも日々対立をくり返していた。
 もはやそれを止めるすべはないと政府さえも諸手をあげ、紛争に走る者、錬金術に走る者、魔術に走る者と国は崩壊の道をひた走っている。
 しかし、世界の隅々まで探せば、そんな崩壊を起こしていない国が見つかるだろう。
 これは、まだ崩壊の道に足を踏み入れていないその国のお話——


    * * *


「おかあさま! なんでお国の外へ行っちゃいけないの?」

 暖炉には柔らかい炎が上がり、貧しそうながらも、幸せそうな家族はこの小さな家に住んでいる。暖炉の前に置いてあるロッキングチェアに座っている母親らしき女性に少女がしがみついて問いかけた。

「それはね、お国の外はとても危ないからよ」
「なんで? なんであぶないの? なにかこわいどうぶつとかいるの?」

 少女らしい無垢な瞳を母親に向けてさらに外についての話をせがむ。
 母親は服の裾を掴む少女の頭を撫でながらゆっくりと話しだした。

「お国の外はね、すぐ別の国があるのよ。今世界では人がいっぱい戦ってて、このお国から出るとそれに巻き込まれてしまうかもしれないのよ」
「……うー、よくわかんない……」

 首を横に傾げた少女に母親は微笑みを浮かべて言葉を続けた。

「そうね、あなたにはまだよく解らないかもしれな——」

 言葉の途中、それを遮るかのような大きなノック音が家の中に響き渡った。
 母親は下唇を噛みしめて、少女をしっかりと抱き、ドアに近づいた。

「……どちら様ですか」
「政府の者だ。違法契約者として貴殿きでん、アメリア・チェレッティを拘束する!」

 その言葉を言い終わったと同時にドアが大きく軋んだかと思うと、鍵が折れるような大きな音と共にドアが開いた。

「なっ——」
「手を上げるんだ!」

 外から入ってきた政府の者達と思われる武装した男達数名が母親と母親に抱かれた少女を取り囲む。

「おかあ……さま……?」
「貴殿がアメリア・チェレッティで間違いないか」

 武装集団の中の一人が母親に向かって言った。
 その言葉に母親は少女をさらにしっかりと抱きしめ返答した。

「…………そうですが、あなた達は——」
「貴殿が違法契約者だという密告が入った。両手を上げてついてくるんだ」

 母親——アメリアの背中を話している男とはまた別の男がドアに向かって押した。
 自分を押した男に向かってアメリアは声を少し荒げた。

「やめてください! 違法契約者とは何なのですか! 私は何もしていないし、知りもしません!」
「つべこべ言わずさっさと動け」
「でもっ、この子は……!」

 首を振ってアメリアは一歩後退した。
 その行動に男が舌打ちをしてベルトに手を伸ばす。

「やめろ!」

 ベルトに手を伸ばした男に対して、一番最初に言葉を発した男が怒声を上げた。

「子どもはいらん。置いていけ」

 その男はアメリアに向き直って冷酷に告げた。
 アメリアは表情を固まらせて下唇を強く噛みしめた。下唇に血が浮かぶ。

「おかあ、さま……? おかあさま、血が」

 少女はアメリアの唇に指を伸ばす。
 しかし、いい加減武装集団も痺れを切らしたのか、アメリアの腕から少女を引きはがして地面に投げ出した。

「きゃあッ」
「エリザ!!」

 地面に振り落とされて、少女が悲鳴を上げる。
 アメリアが目に涙を浮かべて、少女に手を伸ばしたが、その手は武装集団の男達に捕まれて空を掴んだだけだった。

「おかあさまぁ!」

 女のアメリアが男達の武装集団に勝てるはずもなく、強制的に家の外へと連れ出されてゆく。
 男達に腕をつかまれながらも懸命に少女の方を振り向き名前を呼ぶ。

「エリザ! エリ——」


...To be continue