ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 残響踊 ( No.1 )
- 日時: 2009/10/22 17:21
- 名前: 茶雲 ◆wba6GMOss2 (ID: n./2gobO)
- 参照: 因みに名前……ちゃぐもでもさぐもでもさうんでもなんでもおk
プロローグ
「リオ様……リオ様?」
漆黒のドレスを身に纏った十三ほどの少女が辺りを見回しながら、両脇に様々な銅像の立つ幅広い廊下を歩いていた。背中まで伸ばした金髪は内側に少しカールしていて、黒い薔薇の髪飾りがついている。
「リオ様、どこにいらっしゃるのですか?」
少女の目が少し潤んできた。足をとめてうなだれる。
「リオ様ぁ……」
涙目でそう吐息のように漏らしたとき。
「なんだ?」
「ぁはふっ!」
少女は耳元で聞こえた能天気そうな声に可愛らしい悲鳴をあげて飛び上がった。そして勢いよく振り返り、
「リリリ、リオ様! 探しましたよ! どこいってたんですかーっ」
「シャウル、なんだ今の悲鳴は。本当に変な奴だな」
ショートカットの赤髪のこの女性が、少女——シャウルの探していたリオ。二十代だろう。赤く細身なドレスには所々黒いフリルがついている。そのドレスから伸びるスラリとした脚は誰もがうっとりするほどであった。
その脚にシャウルは思いっきり抱きついた。
「おわっ」
リオはよろめいて腰から思い切り床にぶつけた。
「いつつ……。シャウル、お前っ」
「リオ様あっ! 何でそんなのなんですか! そんなに呑気で……覚えているでしょう? あの時のことっ。もう、ずっと私の側にいて下さい! じゃないと、じゃないと……」
大声で喚くシャウルをリオは黙って見つめていた。
それからシャウルは小さくこう続けた。
「寂しい、です」
しばらくの沈黙が流れる。シャウルもリオもじっと見つめあっていた。その空気を破ったのは……
「……ぷっ」
「ちょっ、リオ様っ?」
「ははははっ……ははっ」
口元に手をあて楽しそうに笑うリオの声は、廊下中に響いた。
シャウルは馬鹿にされている、と気付くとぶーっと膨れた。
「もうなんなんですか! 私だってあんなこと言いたかったわけじゃ」
恥ずかしさと怒り、どっちかというと恥ずかしさで真っ赤になりながらまた大声で喚く。シャウルは胸元についているフリルをぎゅっと握り締めた。
「あーごめんごめん。あの時のこと? 勿論覚えてるよ。でもシャウル、書斎確かめてないだろう?」
リオが笑いすぎで涙目になりながら言う。その途端シャウルの顔色は普通に、頬からも空気が逃げて行った。
「書斎……書斎?」
小さくあっと呟き、また恥ずかしさで真っ赤になると下を向いた。「うう……」
シャウルは、書斎への道をどうしても忘れてしまうのだ。二人で暮らすには広すぎる城だから仕方はないのだが——。
「って、私が言いたいのはそこじゃないですー!」
「じゃあなんだ?」
「だから、その……なんで二回も言わないといけないんですかぁ」
シャウルは瞳をうるうるとさせた。普通なら男女構わず誰でも許してしまうような、そんな可愛らしい顔だが、リオのような人には通じず。
「あの、ですね」
それでも本当は伝えたいのだろう。何度でも、何度でも。大切な「主人」のリオに。
シャウルはぎゅっと目を瞑り振り絞るように言った。
「一人じゃ寂しいのでいつまでも一緒に居て下さいっ」
ふっと、リオは優しげに、でもどこか悲しげに——目を伏せ、微笑んだ。
「ああ……分かってるよ」
リオがシャウルの髪を撫でた。
——細くしなやかな命の間を、柔らかな輝きが通っていく。