ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

8 ( No.8 )
日時: 2009/11/05 16:43
名前: 仲矢真由乃 (ID: z9DnoDxA)

あっという間に日は沈み、再び太陽が昇ってくる頃合い。私は、我が店のシャッターを開ける。まだプレゼントが決まっていないせいで、私は軽く上の空であった。そんな私の耳に、涼やかな声が入ってきた。

「店長さん、お久しぶりです」
「……お、おお! 晶ちゃん」
「どうも」

私に声をかけてきたのは、先日話題に出ていた晶ちゃん本人だった。

「いや、見ないうちに美人になったね」
「いきなりお世辞ですか」
「そんなことはないよ」

そもそも中学生にお世辞を使うというのもどうなのか。
しかし、非常に綺麗になったものだと感心する。一目見ただけでは、直ぐに晶ちゃんと判断できなかったほど艶っぽくなっていた。長く真っ直ぐな黒髪に、触れると血が出そうなほど切れ長の瞳、身長も随分伸びている。すらりとした体系も相まって、どこかのモデルが制服を着ているようにさえ見えてくる。

「店長さんは知ってました? 貴博に……貴博さんが今日帰ってくること」

わざわざ言いなおさなくてもよかろうに。

「ああ、昨日稲田から聞いたよ。ただ、何かプレゼントでもと思ったんだが中々思い付かなくてね」
「プレゼントですか? ……ショートケーキとかで良いんじゃないですか、貴博さんケーキ好きでしたし」
「なるほど……ケーキね」

そういえば昔、貴博君はケーキ屋の前を通りかかるとこちらをじっと見つめてきたな。結局「皆には内緒だぞ」と言いつつ買ってしまっていた記憶が蘇る。

「うん、そうするよ。ありがとう、晶ちゃん」
「どういたしまして。じゃあ、学校遅れるんで」
「行ってらっしゃい」

軽く会釈して、晶ちゃんは早朝の街へと歩いて行った。
余談だが、ショートケーキを買う際に人数のことを考えておらず、予想以上の出費を被ってしまった。ショーケースの中のショートケーキだけでは足りず、追加でチーズケーキを買い足した。その時の店員さんの不審な目が忘れられない。もう1人ではケーキ屋に入ると不釣り合いな年頃になってしまったのだろうか。稲田についてきてもらえば良かった。