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Re: 逢屋−アワセヤ− ( No.8 )
日時: 2009/11/07 15:47
名前: 歪-Hizumi- (ID: O72/xQMk)

第二夜 スーパースペシャルジャンボパフェ

学校へ到着した威玖達はそれぞれの校舎へ向かった。
二人の通うこの白銀第一高校は中央校舎、東校舎、西校舎、そして文化校舎、体育校舎の五つに分かれている。
それぞれ東校舎が三年、西校舎が二年、中央校舎が一年となっていた。
私服自由のこの学校では先生と生徒の見分けがつかない事も多々ある。
西校舎三階の廊下を威玖は深いため息を漏らしながら進んでいた。
廊下を歩く彼に同じクラスの男子が野次を飛ばす。
「今日も相変わらず可愛いねー。威玖ちゃん」
「うっせ」
威玖は手をひらひらと振りながらそう答えた。

二年六組と書かれた教室のドアを開け、彼は自分の席へついた。
そしてそのまま机に顔を伏せた。
「あー……電車通学やめよっかなー」
顔を伏せたまま呟く彼の声は夜勤帰りの父親のような声だった。

一時間目から四時間目と時間は進み、疲れ気味の威玖はこの約四時間ほぼ何もせずに終わっていた。
そして今、この昼休みもいつもならクラスメートと騒いで昼食を食べているのだが机に伏せたままぼけーっとしていた。
「威玖君」
不意に名前を呼ばれ威玖は不機嫌そうな顔を上げた。
「何だよ、俺は今お疲れなんです……ってあれ?」
目の前にいたのはクラスメートではなく、三年生の生徒であるはずの旺だった。
「火神……旺……先輩?」
まだ回転していない頭を整理している威玖を旺はひょいっと持ち上げた。
「な、何すんですか!! ちょっ降ろして下さいって」
クラスメートの視線が一気に威玖達に向く。
「あー。ちょっと威玖君借りてくねー」
旺の明るい声が教室内に響いた。

   *

威玖が連れて来られた場所は学校の中央校舎内にある食堂だった。
良い匂いが鼻を突く。
威玖を椅子に座らせ、旺は食堂のおばちゃんを呼ぶ。
「朝のお詫びって事で、好きなモン頼みな」
そう言って満開の笑顔を威玖へ向けた。
「いや、でも一応先輩ですし……。てか、朝助けてもらったのはコッチですし?」
「あ、違う違う。あれだよ、女に間違えちゃったこと」
なるほど、と威玖は頷いた。
「じゃ、お言葉に甘えて」
その時威玖の目が微かに怪しく光ったのを旺は目撃してしまった。

ドンと机に置かれたのは学食で有名なスーパースペシャルジャンボパフェだった。
お値段二千五百円、旺の財布が寂しくなったのは言うまであるまい。
「あ、そうだ。旺先輩って“逢屋”って知ってます?」
ふと思い出したかのように威玖が問う。
「あー知ってる。あれだろ? 最近結構話題になってるヤツ」
財布を片手に旺は答えた。
「じゃあ、旺先輩に逢いたい人っていますか?」
少し真剣そうな顔で威玖が問う。
すると旺はその威玖の顔を見て吹き出した。
「ははははっ、お前あの噂ホントに信じてる訳? あんなの噂好きの中高生が作ったモンだよ」
そう笑いながら言う旺を見て、威玖はムスッと顔を顰めた。