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Re: 逢屋−アワセヤ− ( No.10 )
日時: 2009/11/09 19:17
名前: 歪-Hizumi- (ID: .CNDwTgw)

第三夜 個性の見本

二人がそんな会話をしていると旺の後ろから声がした。
「あるよ、逢屋」
そう言って長身の男子生徒が旺の後ろから抱きついた。
「うおっ!! 驚かせんなよ、帝」
旺はそう言ってその男子生徒の手をどけた。
急な出来事に威玖はただ呆然と手に持っているスプーンをくわえていた。
「おやおや? 珍しい子と一緒にいるね、旺。その子二年の雨宮 威玖君でしょ?」
帝と呼ばれる茶髪にピアスの派手な生徒は旺の後ろから顔をヒョコリと出した。
「……望月 帝(モチヅキ ミカド)先輩……ですか?」
威玖はおどおどしながら帝に問う。
「お? 俺のこと知ってる?」
するとその会話を遮るかのように、今度は威玖の背後から声がした。
「ダメだよ、帝。威玖君驚いちゃってるじゃん」
女の子のような高めの声、その正体は威玖も知っている人物だった。
「貴方は三年生のシエル・バルス先輩?」
「ピンポーン!! 当たりだよ」
名前を聞いて分かるように彼は外国育ちのいわゆるお坊ちゃんである。
金髪に透き通った碧い瞳は何もかもを吸い込んでしまいそうだ。
ここで威玖は自分の置かれている状況に嫌な汗を流した。
「あの……なんでこんなに有名人が集まっちゃってるんですか……」
その言葉に旺達は周りを見渡した。
そしてシエルが呟いた。
「あらー……。これはこれは大変だ」
見ての通りここにいる威玖を含む四人は世に言う学校のアイドル的存在。
その四人が一気に集まったら後は知っての通り騒ぎになる。
気づいたときには既に遅かった。
彼らの周りには大きな人だかりが出来ていた。

「とりあえず、話は後!! 行くぞ」
旺はまだスーパースペシャルジャンボパフェを食している威玖を抱き上げ帝達と共に食堂をあとにした。

   *

場所は変わって西校舎にある音楽室。
この時間帯は誰も使っておらず、静まり返っていた。
念願のスーパースペシャルジャンボパフェを食べ切れなかった威玖は機嫌の悪そうな顔をしている。
「ごめんね、威玖ちゃん。今度また奢るから」
そう手を合わせて謝る帝を威玖は止め、こう言った。
「いやいや。帝先輩は悪くないですから!! パフェは今度また旺先輩に奢らせます」
その言葉を聞き、旺はがくんと肩を落とした。

「で、逢屋の話してたんだよね」
シエルがピアノの椅子に腰掛けた。
「はい。でも旺先輩がそんなのないって……」
威玖はキッと旺を睨みつけた。
「そんな怖い顔すんなって。可愛い顔が台無しだぜ?」
旺がなだめる様な口調でそう言う。
するとじゃれ合っている威玖と旺の間に帝が入った。
「んー……。逢屋はあるよね、威玖君……。そして君がその事を一番良く知ってるんじゃない?」
そう笑顔のまま言う帝に威玖はビクッと肩を震わせた。
「え、どういう事……ですか?」
そう返す彼の瞳の焦点は一点に定まらず、辺りを泳いでいる。
旺も今の状況と帝の言葉の意味が分からないのか頭の上にはてなマークを三つ程並べている。
シエルはその様子を何もかも知っているようなその碧く深い瞳て見つめていた。

「ね? 逢屋の二代目主……雨宮 威玖君」

帝の笑顔に似合わない低い声が音楽室に響く。