ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ——電脳探偵部—— (帰って参りましたぁ!) ( No.7 )
- 日時: 2009/10/29 16:33
- 名前: 空雲 海 ◆EcQhESR1RM (ID: u7zbXwTu)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2/index.php?mode=view&no=10918
「今回のデリート計画は——」
「ごめんなさぁーいっ! お邪魔しまぁーすっ!」
私達は一斉に大声をあげる。
電脳探偵部のみんな、そして来瀬さん。
私達は、ななんとっ!? 来瀬さんのお家にお邪魔していますっ!
「おっお母さん……。私のお友達。入れてもいいでしょ?」
来瀬さんが脅えた様子で言う。
お母さんは
「そんなのお断りよ。さっさと帰ってちょうだいっ!」
そう言い思いっきりドアを閉めるお母さん。
その時っ!
「まぁまぁそう言わずに」
曇先輩がドアに足を引っ掛ける。
「入れてくれたっていいでしょ?」
来るぞっ来るぞっ来るぞっ!
そう言って、曇先輩がニコッと笑う。
キターーーー! 曇先輩の悪魔の微笑みっ!
その瞬間、お母さんの動きが止まり、静かにドアを開けた。
「入ってもいいって」
無邪気に笑う曇先輩。
私は来瀬さんの肩をギュッと持ち、グイッと体ごとこっちに向けさせる。
「いい? 来瀬さんはあんな先輩について行っちゃ駄目よ」
私が力を目に込めて言う。
この言葉の意味が分からない来瀬さんはキョトンとしている。
そして、そのまま私は家に入った。
訳が分からないという顔をした来瀬さんを引っ張って——。
「さて——。計画は発表しました。そこで、おさらいをしたいと思います」
曇先輩の言葉で始まった。
私達は今来瀬さんの部屋で円になって座っている。
曇先輩を時計の12としたら時計回りに、私、雨雲先輩、空雷先輩、来瀬さんとなっている。
「計画はまぁ簡単に言えば、劣り作戦。まず、劣り役が暴力を受けてその場面を私達が抑えるというもの——。劣り役は——来瀬さん」
曇先輩の鋭い目が来瀬さんを捉える。
これは誰しもが反対した。だって、もうデリートするのにもう暴力を受けなくていいじゃない——っていうのが、私の考え。
だけど、この考えは暴力を受けなければ始まらない。
だから一番暴力を受ける確率、そして受けやすく相手がやりやすい人——それは、来瀬さんしかいない。
「もう来瀬がやらなくたっていいじゃないか!」
空雷先輩がガラクタ山から吼える。
「この計画しかしっかり場面を抑えられないんです」
曇先輩が「空雷先輩は、全然わかってない」というような表情で言う。
「だからって、デリートするときぐらい暴力を受けなくたっていいんじゃないんですか?」
私が言うと、雨雲先輩が相づちを打つ。
「いいんです」
このか細い声は来瀬さん。
「このデリート計画は、私は全然反抗してないのに、あなた達にだめもとで頼んだんです。これくらい、わたしがやります。もう……慣れてますから」
そして、力のない笑みを見せる。
来瀬さん……こんな事、本当は慣れたら駄目なのに……。
この来瀬さんの言葉は、私達に大きく圧し掛かってきた……。
——絶対にこのデリートは成功させなければならないっ! 来瀬さんの為に——!
私達は決意した。
その目で来瀬さんを見る私。
その時っ!
「朱音……ちょっとこっちに来なさい」
お母さんから言葉がドア越しに掛かる。
「はい……」
か細い声で答える来瀬さん。
その時、私達を見る。
その目は恐怖で脅えている目……呼んでも、大声で叫んでも、誰も助けに来てくれない孤独感……。
そんな目を私達は見てきた……だから助けたいっ!
——行って! 前に進んでっ! きっと私達が助けに来るっ!
私達はそんな思いを込めて、来瀬さんに見つめ返す。
来瀬さんは、そんな私達の目に答えるように、綺麗な笑顔で出て行った。
「さて——」
曇先輩が立ち上がる。
「ここからが本領発揮です」
- Re: ——電脳探偵部—— (帰って参りましたぁ!) ( No.8 )
- 日時: 2009/10/29 16:34
- 名前: 空雲 海 ◆EcQhESR1RM (ID: u7zbXwTu)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2/index.php?mode=view&no=10918
私達はドアを細く開けて見る。
……誰も居ない。
「リビングの方に行ったんじゃない?」
雨雲先輩が静かに言う。
「その可能性は大ですね。行ってみましょう」
私達は部長の曇先輩を筆頭にして階段を下りる。
その時っ!
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
リビングから悲鳴が聞こえた。
「この悲鳴ってもしかして——」
「来瀬のだぁ!」
雨雲先輩と空雷先輩が言う。
「急ぎましょう!」
私達はもう足音なんか無視してリビングに駆け込む。
そこには——。
「何だよ……これ……」
空雷先輩が冷や汗を流しながら言う。
そこには、全身傷だらけの来瀬さんが押されて倒れたような状態でいた。
ハァハァと息を切らし、腕、足、背中、首辺りまで暴行の後が生々しくあった。
「この子、最後までよくもまぁ悲鳴なしで絶えたと思ったら……この子達が助けにきてくれるとでも思ったのかしら? まぁ実際助けに来たような感じだけどね」
フッと鼻で笑う母親。
「てめぇー!」
空雷先輩が曇先輩を押しのけてグーを作る。
その時っ!
「止めて下さいっ!」
その言葉で空雷先輩の動きがピタッツと止まる。
「来瀬……?」
来瀬さんが息を切らしながら、ゆっくりと立ち上がる。
「私はまだあなた達に言われたとおり抵抗していません……だったら……今抵抗しますっ!」
- Re: ——電脳探偵部—— (帰って参りましたぁ!) ( No.9 )
- 日時: 2009/10/29 16:35
- 名前: 空雲 海 ◆EcQhESR1RM (ID: u7zbXwTu)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2/index.php?mode=view&no=10918
「もうやめてよ……こんな事するの……」
来瀬さんの声が微妙に震えてる。
「こんな事して何が楽しいの?いつもいつも私をぶってばっかりっ! あなたにも見えるでしょう……? このアザ」
そう言い手足を前に突き出し、大声を上げるように言う。
「これが私に暴力を振るった証拠よっ! これが見えないなんてどうにかしてるわっ!」
口調も変わり、そのまま狂ったように続ける。
「あなたは一体何がしたいの? 私を痛みつけたいの!? それとも狂った愛!? これは私はどう受け止めればいいのっ!? こんなの……こんなの暴力でしょっ! 自分でわかってないの? トイレの回数は限られてるし、リビングにも行けない。行ったって殴られるっ! 私の居場所はどこにあるの? 返してよ……返してよ、私の居場所っ!」
その後は耳に劈くような泣き声を上げた。
「うっ……うるさいっ!」
そう言って、母親はイスの横にある金属バットを持って振り下ろす。
殴られるっ!
私はそう思い、ぎゅっと目をつぶる……だけど、一向に生身が殴られるあの鈍い音が聞こえない……。
そっと目を開ける。
そこには——
「デリート計画、開始だぜ」
空雷先輩が金属バットを掴んでいた。
ニヤリと笑う。
「お前親に反抗する根性くらい持ってんじゃねぇーか」
そして、そのまま腕をねじ伏せる。
「いたたたたたたっ!」
苦痛の表情を浮かべ、床に座り込む。
私達は座り込む来瀬さんを取り囲むように立つ。
そして、目の前にいる母親を睨み付ける。
「あんた達……何なのよっ……!」
興奮しながら言う母親。
私達はその問いにあわせてぴったりと合わせてこう言った。
「電脳探偵部です」
- Re: ——電脳探偵部—— (帰って参りましたぁ!) ( No.10 )
- 日時: 2009/10/29 17:06
- 名前: 空雲 海 ◆EcQhESR1RM (ID: u7zbXwTu)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2/index.php?mode=view&no=10918
「電脳探偵部?」
母親の頭の上にハテナマークが浮かぶ。
「来瀬朱音の母親——バグをデリートしに来ました。あなたはこの子の体を見てどう思うんですか?」
曇先輩が厳しい視線を送る。
……数秒の沈黙。
「フッフッフッフッフ……アーッハッハッハッハッ!」
突然大声で豪快に笑い出す母親。
「あんた達おかしいんじゃないの?」
肩で呼吸をしながら言う。
「あんだってぇ?」
「空雷」
雨雲先輩が空雷先輩をたしなめる。
「何がおかしいんですか?」
私が聞くとギロリと目を光らせる。
「あんた達、この子に騙されてるわよ」
え!?
私達は眉を八の字にさせる。
「この子、ご飯食べ残したから注意したのよ。そしたらなんて言ったと思う?」
……沈黙。
「この子、『別に私が作ってなんて言ってないんだから残してもいいでしょ』って言ったのよっ!」
声が上がる。
そして、私達の目線は来瀬さんに向けられる。
手に汗が出てきて光ってる。
「それからよっ! この子が反抗するように言ったのはっ! 私の言う事なんて全然聞かないっ! 夜遅くに帰ってきたり、食事に手を付けなかったり、だから正そうと思ったのよっ!」
一呼吸置いて、また話し出す。
「そうじゃないとこの子ちゃんとしてくれないのよっ! 私は教育したのよっ! それなのに電脳探偵部とかどーとか知らないけど、なんで私が責められなきゃいけないのっ!?」
最後の方は興奮しててわめき声にしか聞こえなかった。
私達の目はどんどん疑惑の色で染まっていく。
私もそうだった。来瀬さんは相手だけが悪いみたいな言い方をした……DVはやっちゃいけないけど、こっち側にも非はあるんじゃないかな……だけど——駄目な事は駄目。
そして、あっちにも非はあり、こっちにも非はある。
だって……私達にはあの言葉があるから……。
「フッ」
空雷先輩が鼻で笑った。
「なぁーんだ……そんな事かよ」
そう言って来瀬さんに向き直る。
「一つだけ言っておきたいことがあります」
曇先輩が言う。
「あなた——何か理由があったんじゃないんですか?」
曇先輩が優しく聞くと、来瀬さんに頬に涙が伝った。
「そうなのね?」
雨雲先輩が言うと、ゆっくりと頷いた。
私達はその答えに満足そうに頷き、母親に向き直る。
その瞳に、もう疑惑の色はなかった……。