ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: “Variant” ( No.4 )
日時: 2009/11/04 15:56
名前: 犬野ミケ (ID: MsIbxfYV)

1章


 1人の少年が、穴を掘っていた。
 少し緑色を含んだ淡い金髪と、森を連想させる深緑の大きな瞳を有する、17歳程のまだ年端もいかぬ少年。少年は一時も休むことなく、穴を掘り続ける。

 少年の傍らには、山が出来ていた。今まで少年が掘ってきた土の山、ではない。大きなものが積み重ねられて出来た山だった。

 それは、人だった。

 人の屍によって、その穴は築かれていた。
 死んでから相当時間が経っているらしく、死体達の体には蝿が集まり子を産みつけ、子である蛆虫が皮膚を食い荒らしていた。腐敗も進み、吐き気を催す臭いを撒き散らしている。

 しかし、少年は気にも留めない。屍達の傍らで、唯黙々と穴を掘るのみ。

 ようやく大人が両手をいっぱいに広げられる程の大きさの、深さも十分にある穴を掘ると、少年は満足げに息を吐き手の甲で額を擦った。擦った時に土が触れたのか、少年の額に茶色の一文字が浮かぶ。

 穴を1つ掘り終えた少年が歩む先は、屍の山。1番上の死体の腕と思しき場所に手を掛け、一気に引きずり落とす。
 急な刺激に驚いたのか、蝿が一斉に飛び立つ。周りを煩く飛び回る蝿を少年は厭わずに、死体を穴まで引きずっていく。虚ろな死者の眼窩から数匹蛆虫が転がり落ちた。

 遠心力を使い穴の中に投げ入れた屍の足の先が、穴の端から出ていた。少年はそれを死者の膝を曲げてそっと中に入れる。そして、上から土を被せていく。
 死者の体が完全に埋まれば、スコップの平らな面で土を均す。綺麗に整えば、どこからか拾ってきた粗末な木の枝を目印とばかりに突き刺す。

 それは、彼なりの墓標だった。そして彼は今、同じ村の者達を埋葬しているのだった。1人で、延々と。

 少年は、村の中の唯一の生き残りだった。

 少年——————ルネはまた、穴を掘る作業に取り掛かる。