ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: “Variant” ( No.7 )
日時: 2009/11/08 13:25
名前: 犬野ミケ (ID: 4oMZT1gB)

 男は、その日何度目かの溜息を吐いた。
 目頭を右手の人差し指と中指で摘み、少しでも疲れを取り除こうと揉む。しかし効果は今一つだったようで、すぐに手を降ろし肘掛に置いた。

「まだ着かんのか」
「もうすぐ、もうすぐです!」
 男の静かな怒りを含んだ声に、男の部下が上ずった声で叫び返した。
「無能め」
 そう呟いて、ワイングラスを一気に呷る。温くなった葡萄酒は安物という事も相俟ってか、吐き気を催すほど不味かった。これでは悪酔いしたとしても不思議ではない。男の苛立ちが更に募る。
 乱雑に手を振ると、怯えたように尻込みする女給史がグラスを下げていった。

 男は頭痛を覚えてこめかみを押さえる。
「最近は何かとヴェリェントによる事件が多い」
 さらに、と男は付け加える。
「それを『喰い物』にする奴らも、私の邪魔ばかりをする」
 誰とでもなく、男は呟く。
「もうすぐだ」
 もうすぐ、自分の野望が叶う。全てが、自分の物になる。もうすぐ、全てが始まり、全てが終わる時が来る。もうすぐ、もうすぐ……

「いそげ」
 男はその日何度目かの溜息と共に、部下に命じた。

 男の乗った乗り物——————飛行艇は進む。