ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: “Variant” ( No.9 )
日時: 2009/11/21 09:50
名前: 犬野ミケ (ID: LUfIn2Ky)

 或いは1時間前

 初春のまだ肌寒い風を僅かに感じる、暗い森の中。昼間だというのに足下が曖昧になるほど日光を遮る、新芽の出た木の枝を見上げ、男が呆れて呟く。
「うげぇ。参るな、これは。こんだけ暗けりゃテンションもガタ落ちだっての……なぁ、イオリ?」

 悪態を吐く男がイオリと呼んだ傍らの男は、憮然とした面を見せて男を無視する。そして、話しかけてきた男を置いていこうと、騎乗した動物に拍車をかけ足を速める。
「だっ!?酷っ酷いぞッ人を無視するな!」
「煩い、フィル。喧しい黙れ口を閉じろ。そこら辺の枝にでも突き刺さって死んでおけ」
 人差し指を勢い良く突きつけ、罵声を上げる男——————フィルに激烈な言葉を重ねに重ねるイオリ。

 奇妙で珍妙な2人組、フィルとイオリ。
 2人の纏う服は、揃いの物だった。黒に近い藍色を基調とした、軍服。右上腕部には鳥が大きく翼を広げる図柄の刺繍が施されており、その下には同じく刺繍で文字が刻まれていた。

<ローダ騎士団>

 それは小規模ながらも、広く名を轟かせている一団だった。実力は元より、別の意味でも有名なローダ騎士団。

 羽觴のローダの二つ名を拝し、騎士団の名を冠すローダ騎士団だが、その本質は他の騎士団と大きく異なるといっても良い。寧ろ、賞金稼ぎの集まりに近い。

 まず、本部というものが存在しない。彼らには、帰る地はどこにも無い。その分、施設の維持費が必要なく、あちこちを自由に動き回れることが利点である。
 次に、非常に少人数であること。その数——————8人。少ないが、個々の能力は高い。実力だけなら、どの実在する騎士団にも勝るだろう。少数ゆえに、消耗戦には耐えられないのが弱点ではあるが。

 そのローダ騎士団が2人、フィル・カーソンと長沢イオリは迷うことなく森を進む。おる男に止めを刺すこと、その為に。

 たわいない会話をしながら進む2人をしながら進む2人を、瞬きすらせずに木の上から凝視する瞳があった。
 2人が視界から消えうせると、瞳の持ち主は大きく鮮やかに目に映る黄色の翼を広げ上空へと羽ばたいていった。そして煌々と地を照らす太陽に向かって一声甲高くしゃがれた鳴き声を上げた。
 まるで挑戦を叩きつけるかのような鳴き声は、言葉の羅列にも聞こえた。