ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 俺と世界の夢戦争〜Mind war〜 ( No.16 )
日時: 2009/11/23 00:45
名前: 十六夜 葉月 ◆Gl6JohbFiw (ID: A8w5Zasw)

war:8 輝く星は暗雲に呑まれる、ただ虚しく

 俺は他人のふりをする為にしばらく様子を見る事にした。
 カノンの怒りを若手の役員では抑える事が出来ず、しまいに上の人間が冷や汗をかきながら説明したようで、カノンがこっちへと無言で戻って来た。

「あ、カノン! どしたの? 書籍館に行けないって……「警告する」

 千歳の言葉はカノンの殺意のこもった低い呟きによって途切れた。

「警告する。法条 有希、森川 千歳、お前達を私情で傷付ける訳にはいかない。今直ぐリンクを断て。断つ方法を知らないなら私が強制的に切る」

 千歳は少し驚いたが基本的には情に熱く、困っている奴を見捨てないタイプなので千歳らしい返事を返した。

「え、別にあたしは私情でも構わないけど。むしろあたしに出来る事ってないかな?」
「いいから断て!!」

 その気迫に怯んだ千歳は目を見開いて何も言わなくなった。そのやり取りに俺は静かな怒りを感じた。

「……確かに、俺等は来たばかりの役に立たないクズ共だ。たがな、友達が手を差し伸べたら素直に有り難うって言うべきだろ!? お前は、お前は何を一人で抱え込んでいるんだよ。なぁ、旅のパートナーってのは互いの事を理解して、信頼をして、あらゆる困難を一緒に乗り切ってこそパートナーだろ? 熱くなって、すまん」

 カノンは綺麗なアメジストのような紫色の瞳で睨んできたので勿論俺も睨み返した。鋭く見つめ合う事一分、ようやくカノンが折れたようだ。

「目的地は書籍館。ここから数メートル先だから。急いで」

 やっぱりカノンちゃんはツンデレなんだねしかも時々クーデレだよ。もう最高!! と思っていたら以外と足が速く、気がつけば千歳にも置いていかれそうになった。

※  ※  ※

「着いた。これ以上はもうお前達のする事は無い」

 とカノンがあれだけ速く走ったにも関わらず、息一つ荒らげずに冷淡に告げた。
 目の前の建物、書籍館は周りを水を溜めた深そうな池の中心に建ち、建物へ入るには正面口前の石橋を渡るしかない構造になっていた。

「なんだか、周りの空気が冷たく重いって言うか、張り詰めてるね……カノン、ここって普段からこんな感じなの?」

 カノンは千歳の問いに対して首を横に振り、一息置いた後、深く息を吸って女の子が出せる声ではない低い声で呟いた。

「……出て来い。黒月乃千年狐コクゲツノセンネンギツネ、いや、化け物!! 貴様だろう? 法条 優希さえ世界の存在に気付けば必ず誰かと共に書籍館に来ると思ってここを閉鎖したのは。確かに貴様程の腕前と裏政府軍の力さえあれば書籍館を占領する事なんか造作もないしな」

 カノンが叫んだ方の奥の方、つまり書籍館の入り口の所に一瞬前までしなかった人の気配がしたかと思うと、どこかモダンな黒い着物を身に纏い、同じ色の髪を銀色の紐で後ろで一筋に纏めてようやく地面に着かない位長い髪を静かになびかせた、長身の男か女か分からない者が佇んでいた。
 そして今まで閉じていた瞼を開けると左手を背中に回してゆっくりと何かを引き抜きながら口を開いた。

「ほう、我が犯人だと良く分かったな。誰かと思えば、我は知っているぞ、ゲームの参加者だろう? 主は狩猟動物としてはなかなか優秀そうだ。だが、狩り出来なくては狩猟動物とは呼べぬぞ!!」

 言い終わるか終わらないかの時に金属がこすれる音が小さく鳴ったかと思うと、次の瞬間には目の前にあった丈夫そうな石橋はなだらかなアーチ状だった形が崩れて、その残骸が池に張られた水に叩きつけられた音が響いた。

「来い、妹。いや、本来は違うか? まあ名称などどうでも良い。主の力なら周りの創造者ともう一人を連れて来る事は不可能でも主単独でなら、ここまでその妙な妖術の類で来る事が出来るだろう? どちらが正しい道か、決着をつけるぞ」

 カノンは無言のまま去ってしまうと思っていたが、俺と千歳の方を少しだけ振り返った。

「行って来る」

 俺はそんな不器用な彼女の気持ちを受け止め、しっかり最後までこの戦いを目に焼き付ける事にした。

「しっかり俺の元へ帰って来いよ! また可愛いカボチャパンツ、見してくれよな!!」
「……ばーか。誰が見せるか」