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Re: 俺と世界の夢戦争〜Mind war〜 ( No.17 )
日時: 2009/12/02 17:06
名前: 十六夜 葉月 ◆Gl6JohbFiw (ID: A8w5Zasw)

war:9 白の正義、黒の正義

 俺と軽い挨拶を交わした後、またカノンは真剣な眼差しに戻り、足元にブーツの踵で地面に小さな模様を書くと、目を閉じた。そして英語でも、日本語でもない謎の言語をアナウンサーでも言えなさそうな早口で告げ終わるとカノンは元の位置にはもう居なくて書籍館が建つ、池の中央の島に居た。

「貴様、私が移動魔法の呪文を詠むの苦手と知っておいて。体力、魔力共々削ろうって作戦? 流石は狐だ。小賢しい。」

 それに対し黒ずくめの身なりの人は答えようとする気はなく、黙っていた。それがカノンの怒りに触れたのか、仕舞には俺達には全く分からない事への怒りを露わにした。

「貴様もゲーム参加者なのだろう!? 何であんな奴の元に就く!? 貴様も奴に奪われたのだろう? それなのに何故!?」

 その言葉が鍵となったのか、黒ずくめの人は再び背中に手を回すと刀を一気に引き抜いた。

黒月流新月刀式闘剣術捌形コクゲツリュウシンゲツトウシキトウケンジュツハチガタ……瞬月」

 その掛け声と共に隙の少ない動きでカノンへと斬りかかった。鞘が背中の中に収まっていたので刀身の長さが分からなかったが、黒ずくめの人の身長と同じ位長くてカノンの圧倒的不利かと思われた。が、カノンは軽快に踊るようなステップ捌きで刀をかわした。

「表面には出さないけど、そんなに怒って気持ち任せの単調な斬り方なら私を斬るなんて無理だけど」
「主を、我が新月刀で直接斬り殺すなんて誰が言った? 主こそ、心の内が荒れていては致命傷を負うぞ」

 と、黒ずくめの人が後ろへ引いた時だった。カノンの白くて艶やかな肌や黒い布地が裂けた。そこから鮮やかな赤色が流れて地面、黒の布地、そして頬の薄い肌色の単色のキャンパスを水玉模様に染め上げた。

「黒月流新月刀式闘剣術捌形、瞬月は刀で直接斬る事を目的とせず、空気を切り裂き空気を刃とする技だ」

「フ、ハハ、フハハ、フハハハハハ!! 面白いねえ。楽しいねえ。痛いわあ。マジ痛いわあ。あたしの大切な故国モノも馬鹿にされたみたいだしさあ。ねえ、ちょっと本気で……苛めて良い?」

 カノンは壊れたように笑って頬から垂れた一筋の己の血を舐めるとケープのような短いマントの内側から俺を殺しかけたステッキを取り出した。

「イッツショータイム! 覚悟してね?」

※  ※  ※

 カノン逹が戦い始めてから、俺と千歳は正直言って何もする事がなかったので、互いの情報を交換していた。千歳の話が正しいと仮定すると、ある程度この世界の仕組みが分かった気もする。例えば、精神世界に繋がるのは俺の意識が無い時であることや、現実世界に実体を持つ者でも、何らかの条件さえ揃えば俺のフィールドにリンクさせれる事。そこで俺はある疑問を持った。

「なあ、千歳。カノンちゃんってさ、現実世界に存在すると思うか? 俺はそうは思わない。もしアイツみたいな魔女が存在するなら世界はもっと変わっていると思う」

千歳は一度カノンの方に視線を送ってまた俺の方を見ると、首を傾げながら答えた。

「うーん、あたしに言われてもなぁ。でも、多分居ない、とあたしは思うな」
「やっぱりか? じゃあ何でわざわざこんな世界に居るんだろな。てか、アイツの説明だと、カノンの故郷は俺のフィールド内に存在するんだろ? ますます訳分かんねえ」

 そんな事無いと思うな、と千歳が独り言のように呟くと、眉間に皺を寄せて少し乾いた、薄くて形の良い唇を舐めた。千歳が趣味の推理小説の犯人を特定する時とかに見掛ける、通常よりもより集中して考え事をする時の癖だ。どうやら千歳なりに何か仮説を立てたみたいだ。

「カノンが前にあたし達に言った正史の人間、って事が正しいとすると、あたし逹が生きている世界とカノンが生きている世界、つまり世界その物が二つ以上存在する事になる。つまりパラレルワールドってところね。カノンの方の世界は何らかの要因で途切れてしまって、それが私達の住む世界の人間の仕業である……まだ証明にはならないけど、説明としては充分じゃない?」

 普段、こんな説明をされたら誰だって頭がおかしい、と鼻で笑われるだろう。だがここは常識とかけ離れた世界だ。俺はその推理は間違っていないと思う。
 
「今さ、カノンが戦っているあの黒ずくめの人、あの人もきっとカノンと同じく何かの為に戦っているんだと思う。……何かあの二人って決して互いを相容れないけど、目指す先は同じ、そんな感じだと思うんだ」

 と千歳が言った時に、今までに無い程の爆音が轟くと、砂埃が舞ってカノン達の戦いに終わりを告げる幕のように辺りを包んだ。どうやら決着が着いたようだ。