ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 俺と世界の夢戦争〜Mind war〜 ( No.3 )
- 日時: 2009/11/20 11:45
- 名前: 十六夜 葉月 ◆Gl6JohbFiw (ID: A8w5Zasw)
war:1 思い出は鮮烈に(前編)
黒塗りの車が俺達の前に止まってから一分経つか経たないくらいの時間が経過すると、ドアが小さな音を立てて開いた。中から現れたのは体格の良い男でも、役に立たない己の財力を誇示する為の装飾品に身を固めた婦人でもなく、儚い雰囲気の砂糖菓子のような少女だった。
「お久しぶりね。えっと……私、昔一緒にお話しなどして遊んだ神月 杏樹(カンヅキ アンジュ)よ。まさか、忘れてないよね? 約束、覚えているよね?」
そう告げた少女はゆるくウェーブのかかった長い、雪のように純白で綺麗な白髪を揺らし、深いルビーのような赤色の、長いまつ毛で縁取られた瞳でこちらを見詰めた。彼女を一言で言うと、人形だ。
それは外見の美しさだけでなく、全てが人形だ。もう、初めて会った時の彼女ではなくて人形なのだ。
※ ※ ※
俺が確か小学生だった時の夏のある日だっただろうか。その時は、友人達と見つけた秘密の空き地を使って野球をしていた時だった。
俺は当時ピッチャーをしていて、相手はクラスのガキ大将だった。三振させれば俺のチームが勝ち、もしホームランを打たれれば逆転負け、そんな状況だった。
小学生にも意地ってもんはある。当時の俺も、渾身の力を込めたストレートを投げようと片足を上げた時だった。
連日続いた雨の泥のせいで足が滑って体勢が崩れて白球は打者の真ん中へと吸い込まれた。
「よっしゃ! 貰ったぁぁあああ!!」
掛け声と共に、真芯で捉えられた白球は止まる勢いを知らずに空き地を抜けて、隣の城のように大きな家へと消え去った。
(うわ……マンガみたいな展開だよ。俺、絶対拾って来る奴になりたくねーよ)
そんな事をしたい奴は勿論チームの中を探したって一人も居なかった。そして、ある一人が皆に提案をした。
「なぁ、ここは負け投手のユキが行く所じゃね?」
それに気付いたチーム員達に異論の声は無かった。
「さんせー」
「中性」
「アルカリ性」
「は!? お、俺かよ! 泥のせいなのにな」
物のせいにしつつも結局は俺が取りに行く事になり、仕方なく正面の門のインターホンを恐る恐る押してみた。
「す、す、すいま、すいませーん。あの、その、ええと」
しどろもどろしていると、庭に居た一人の少女が手にボールを持って現れた。
「これ、君の?」
そう告げた少女は歩くのが少し億劫な様子で近づき、しばらく俺の顔をまじまじと見詰めた。
(こ、こいつ髪が白いし目は赤いけど、可愛いなぁ。クラスの女子なんてすぐ怒るし先生に言いつけるけど、なんかこいつはふいんき? が違うなぁ。と、友達とかなれないかな!?)
「あの……私と、と、友達に、なって」
小さく呟いた声を俺は聞き逃さずに聞き取っていち早く反応した。
(うっそ!? これは夢か? 夢でも良い!! あ、ほっぺ痛い! 現実だよやった!!)
「そして、私を外へ、外へ連れ出して!!」
意味は良く分からなかったが、小学生なりに何かを掴み取った俺は頷いて小指を差し出した。
「うん、分かった。約束する。嘘吐いたら針千本飲むから」
これが彼女の、たった一つ、最期の願いだった。
