ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 俺と世界の夢戦争〜Mind war〜 ( No.5 )
- 日時: 2009/11/07 14:20
- 名前: 十六夜 葉月 ◆Gl6JohbFiw (ID: A8w5Zasw)
war:3 小さな盤上の哀れな駒よ
俺の長い回想を終えると、もうそこに杏樹の姿は無かった。
「ユキちゃん、さっきの子、明日からあたし逹のクラスに編入して来るんだって。だから、ユキちゃんが驚いた理由、ちゃんと教えよっかー。まさか、元カノじゃないよね? ユキちゃんに限って、そんな事有り得ないよ、ね?」
そう告げた千歳は声はいつも通りだったが完全に目は笑っていなかった。普段なら、この後の惨劇を回避する為に何でも喋ってしまうが、今回だけは事情が違う。いくら相手が千歳と言えど、あの事は誰にも話す気はなかった。言ったって、きっと信じないだろう。
つーか、改めて俺のプライドって皆無なんだな。いつか「犬」と呼ばれてもおかしくねぇ現実がなんとも腹立たしい。
「すまん、その事は誰にも話す気にはならないんだ」
「ちぇー。つまんないの。まぁ、別に世の中聞いちゃいけない話なんて沢山あるもんね。でも、もしあたし以外の人に喋ったりしたら……分かるよね?」
瞳に凶悪な光を灯しながら千歳が学校指定の鞄から取り出したのはピコピコハンマーだった。おっと奥様、舐めちゃあいけませんよ。このハンマー、実はただ者じゃないんですなぁ。な、なななんと!! 叩いた瞬間にハンマーヘッドが爆発するんですよ! どう言う原理か知りませんが、ハンマー自身と彼女の手には一切ダメージを喰らわない安心設計なんですね。でも威力は抜群! この前なんてちょっと叩いただけで学校一大きい桜の木を根こそぎ粉砕した程ですから自信を持って提供出来ますよ。今ならなんと! お値段……
「御免なさいすいません許して下さい」
「うむ。分かれば良い」
そう言って鞄の中へとブツを収めて、今までゆっくりと歩いていた足を止めた。
「んぉ? どした? ちと……」
振り向いた時には千歳は俺の背後にピッタリと、あと一ミリでも動けば服と服がこすれてようやく分かる位置に立ち、耳元に微かな声で囁いた。
「好奇心は猫をも殺す。だから気をつけてね」
その声の冷たさと雰囲気の異様さに、俺の全身の毛が逆立った気がした。
(どういう事だよ? 今日は何かおかしいよな……。まずは七年振りにアイツに出会ってしまったし、それに今背後に居るのは本当に千歳か? いっつもベタベタくっ付いて来やがるが、こんな表情見た事ねぇよ)
「わぁー! そういやもう電車が来る時間じゃん!! じゃ、ユキちゃん、今夜は気をつけてね!」
そう叫んで走り去った時には既に普段通りの千歳に戻っていた。
(はぁ? 何で夜に気をつけるんだ? 夜の事故と言えば、泥棒か? それとも幼なじみの美少女が窓伝いに入って来て宿題見せて、なんて言う嬉しいイベントか!? でも俺に幼なじみの美少女なんていないし学力なんて皆無だから教えてなんて言われないしそれよりウチはマンションの八階だぞ!? もし窓から来たら確実にホラーだよな!?)
ありもしない事を考えて本気で悩む高校生(男)はこうして家へと辿り着いた。着くまでに何回か近所の人の冷たい視線を浴びたのは言うまでもない。
※ ※ ※
気だるく鍵をノブに差し込んでドアを開けると、いつもはお袋が作る夕飯の良い匂いが狭い家の中に広がっている筈だったが、今日は匂いは無く、暗い静寂に包まれていた。
(あー、昨日から兄貴が緊急入院してお袋はそれに付き添いに行ったっきりだし、オヤジは出張だったっけな)
そんな事はよくある事だ。おもむろに俺は戸棚へと向かい、ストックしているカップラーメンの封を開けて、ソファーに寝そべりながらテレビを見て三分を潰す事にした。
(今の時間帯だと面白いのねーなー。ダチからDVDでも借りりゃ良かったなぁ……)
いつの間にか眠気に襲われていた事に気付いた時にはもう瞼が開かなくなってしまった。
※ ※ ※
俺は今、何故か薄暗くて何かの機会音だけが部屋に響いている場所に居る。あれ? 確か俺はカップラーメンが出来上がるまでテレビを見て待とうとしたら眠くなってうとうとしてたんじゃねーのか? じゃあ、夢なのか?
夢、と言う単語で一週間前のあの悪夢を思い出した。もうあんな怖い夢は御免だ。俺のガラスのハートにそんな刺激的な物を見せ付けないでくれ!!
強がってみたものの、やはり体はごまかせないようで、震える手を顔へ運び、頬をつねってみた。
(これは夢、夢だっ!!)
その願いは叶わず、俺の神経は脳へと確実に痛感を伝えていた。
「な……夢、じゃないのかよ。じゃあ、ここはどこなんだよ!?」
その叫びに答える者の声が聞こえた。その声には聞き覚えがあった。
