ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 実話予測。(じつわよそく) ( No.2 )
- 日時: 2009/10/30 20:54
- 名前: しょくぱん ◆w5n9scQNOM (ID: 1bx430d5)
- 参照: 第一章
第一章
◆1
私は、牛島 リン(うしじま りん)という歌手が嫌いだった。いや、現在も嫌いだ。
彼女は14歳 という若さで、最近、日本中を騒がせている人気歌手だ。リリースされるほとんどの曲は、聴手に共感が得られるように作られていて、確かに秀逸である。しか し、彼女が人気を得た理由は、曲だけではないのだ。彼女は顔がとても可愛い。おまけに、スタイルも抜群であった。本業は歌手であるのに、ファッション誌の 表紙にその美貌を晒しているほど、彼女は美しい存在であったのだ。
けれども、別に私は彼女のその華やかさを妬んでいるのではない。むしろ、私は彼女のように輝いている存在の殆どを、尊敬しているのだから。では、何故、そんな私が牛島リンという歌手を嫌っているのか。
それは、彼女と私が同姓同名であるということが原因なのである。
「やっぱ可愛いよなぁ、リンちゃん! 最高だぜぇ」
「私はそう思わないけど。でも、曲は、まぁまぁ良いんじゃない」
家族で夕食の鍋をつついている最中、偶然テレビに映っていた牛島リンを、私の弟の牛島 蓮斗(うしじま れんと)が褒め称える。
だから私は、蓮斗の発言に、口の中に白滝を含ませながら答えた。いや、厳密に言えば、別に蓮斗の発言に答えたわけではないのだ。今のは、私の口から自然と本音が出ていただけで、独り言と同じ部類に含まれると思う。
「そうやって姉ちゃんは何でも批判的だよな。同じ名前なのに、歌手のリンちゃんとは大違いだぜ。本当、お前バカだし、キモいよな。もっと明るく生きろよ」
蓮斗が私を煙たがるように言った。私は反射的に、蓮斗のその言葉に一つだけ頷いてしまった。
よくよく考えると、私は私の意見を言っただけなのに、何故そういう批判を受けなければならないのか理解できない。最早中傷ではないか。しかし、私が弟からそういった批判を受けることは、これまで生きてきた中で多分にあったことだから、これ以上の反応はしないつもりだ。
蓮斗は、私よりも一つ年下の、小学5年生である。昔から、口八丁なだけに世渡り上手なやつだった。日頃から両親や先生を始めとする大人たちには媚を売っ て、私や友達といった子供には平然と生意気や我儘を言ってくる男なのだ。特に、姉である私に対しては、うるさかった。私が何か意見を言えば、いちいち中傷 を含んだ批判を投げかけてくる。去年家族旅行に行った際、ソフトクリームを買ったのだが、そこでも弟から理不尽な扱いを受けた。私はそのときチョコレート 味のソフトクリームを食べたかったから、それを注文したまでなのに、普通チョコレート味は男子が食べるもの、と嘲られたのだ。その後3時間は、弟から、“ リン夫(りんお)”という、男っぽいあだ名で呼ばれた経験があった。
弟は運動もできるし、自慢できる部分をたくさん持っているやつだが、私は蓮斗をあまり好きになることはできなかった。
(つづく)