ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: ——電脳探偵部——  ( No.36 )
日時: 2009/11/15 16:18
名前: 空雲 海 ◆EcQhESR1RM (ID: u7zbXwTu)

今回のデリートは……無事終了しましたね」
曇先輩の言葉で私達はガッツポーズする。
「やったぁー!」
「疲れたぁー!」
「一段落ね」

今、私達は電脳探偵部の部室(あるいは使われなくなった備蓄倉庫)に居ます。
空雷先輩がガラクタ山の上であぐら座り。
雨雲先輩は机でタロットカード。
曇先輩はデスクでカチャカチャ。
私は何もすることが無いから、雨雲先輩の横。
今回は一つの依頼主から二つのバグをデリートするという過酷なデリートでしたが、まぁ無事終了ですっ!

「にしても、今回は頑張ったわ」
雨雲先輩が首を回しながら言う。
「しかもほとんど人権問題の社会系。まったく……手間かかせるぜ、来瀬は」
「そうですよねぇー」
私が空雷先輩と同調すると、
「誰が手間かかせたって?」

……背後に悪寒が。
私達はゆっくりと振り返ってみる。
そこには髪を逆立て、あの重たい扉をちょっと開け、外から覗いている幽霊が……。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
四人全員大絶叫。

「ちょっと! そんなに驚かないで下さいよっ!」
扉を開け、部室に入ってくるその人物は……。
「来瀬さんっ!」
私が言う。
「なんでこんな所にいるんですか?」
聞くと、
「この前のお礼。あの時は本当にありがとう。今は幸せな生活を送っています」

満面な笑みで答える来瀬さん。
その笑みと制服がとても綺麗。
前は、水をぶっ掛けられたりして汚かったから。
「こんな平凡で、何も起こらない生活って、こんなにも幸せで、とても大切なものだったんですね……。改めて感じました」

うん。私もそう思う。
本当は、こうやって電脳探偵部のみんなが居て、友達が居て、親が居て——。
それって、すっごく当たり前のような感じだけど、すっごく大切な事なんだって。

改めて思ったよ。来瀬さんはあの生活に慣れちゃったから、なんとも思わなかった。でも、それが実は駄目なんだ。そんな生活には絶対に慣れちゃ駄目。改善しようって思わなくちゃいけないんだ……。人間、絶対幸せは体感しなくてはならないもの。でも大丈夫。来瀬さんは体感した。これからもっと大切な事を体感する。来瀬さんは、ちょっと遅かっただけなんだ……。

「みなさんに、お礼がしたくて……」
来瀬さんが重たそうなカバンを下ろす。
そういえば、その中には何が入っているんだろう……。
「私、また新刊出したんです。書き下ろしです」

そう言って、出してきたのは——。
「うわぁー! 何これ!」
そこには、来瀬さんのペンネーム「花巻 朱音」で書いている本が。

「あなた本出したの?」
「はい! また『本を出してくれ』という依頼が来ましたので」
「すごいじゃないっ! 朱音ちゃんっ!」
雨雲先輩が来瀬さんの頭をなでる。

「へぇー! また『花巻 朱音』で本出したのかぁー!」
「もう有名小説家だねっ!」
私と空雷先輩が言った。
「ありがとうございますっ! これも皆さんのおかげですっ! これ、実は電脳探偵部をモデルにした物語なんです」

「えっ?」
私達の声が重なる。
「あなた達の姿が書きたかったんです。すっごくかっこよくて、いろんな人を助けて。だけど、名前は誰も知らなくて、誰がやっているのとかも一切知らない。すっごくかっこいいですっ! だから、無断でモデルにさして頂きました、悪かったですか?」

「いいえ。とんでもない」
曇先輩がデスクから突然言い出す。
「こういうようにモデルにさして頂くのは、ありがたいことです。ありがとうございます。花巻 朱音さん」

「本当ですかっ!?」
来瀬さんが目を大きく開けて聞いた。
「はいっ! 大歓迎ですっ!」
「大丈夫だぜ!」
「まぁ、名前とかは偽名使うならいいんじゃない?」
私達が言うと、まるで花を咲かせたように言う来瀬さん。

「ありがとうございますっ! それじゃぁ、どうぞ、差し上げます!」
「貰っていいのか?」
「はいっ!」
「やったぁー!」

私達の声が揃い、部室(あるいは使われなくなった備蓄倉庫)に響いた。
あとは、来瀬さんの満面の笑みと、曇先輩が迷惑そうな顔が残った……。