ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

第十六話 一本の糸 ( No.125 )
日時: 2010/01/23 17:06
名前: (( `o*架凛 ◆eLv4l0AA9E (ID: 81HzK4GC)

「逃げられましたね……」

 フィリアはふっと軽くため息をつきながら呟いた。
 胸に抱いたコルアは「クーン」と鳴き、尻尾をゆらゆらと揺らす。
 フィリアはそれを見て微笑んだ。今までとは違う、温かい笑みだ。

「ねえコルア? コルアは今、幸せですか?」

 少女はどこか遠くを見つめるようにぼぅっとする。
 炎に焼かれ、燃えおちた建物、誰とも区別がつかぬ人間の屍、
 血に赤く彩られた大地、そして、穏やかな風。
 
「この国は……もう駄目なのでしょうか。
 あの美しい国エルドラドは、一体どこへ行ってしまったのでしょうか……」

 一人だけの広場に、フィリアのどこかへ問いかける声が響く。
 その声は、とても静かで、悲しみがこもっていた。

 この妙に心地よい風は、この国への弔いか。それとも何かの暗示か。

「まだ人間が残っているはずですわね」

 理由はないが、なぜかそんな気がした。
 いや、そう思わなければ、どうしようもなく不安だった。

「帰りますか……? コルア。私達の場所へ。それとも人を探しますか。
 まあ、帰る所なんてないのかもしれませんが……」

 コルアはどこか寂しそうなフィリアを見てその頬をぺろぺろとなめた。
 暖かい舌のざらざらとした感触が頬に伝わり、フィリアの心を少しずつ温めてゆく。
 コルアは白銀の毛並みを風に揺らしながら一声鳴いた。

「そうですか。では、帰りましょうコルア。[フィリアム]へ……」

 少女はさっと杖を一振りすると、風と共に姿を消した。