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Re: Fates of Chains ( No.4 )
日時: 2009/11/14 12:38
名前: 某さん ◆PHKOj6t3P2 (ID: YpJH/4Jm)

Episode01
Peace the World -ありふれた日常-

「シド様! シド様!」

 長いメイド服の裾を掴み、庭園を駆け回るメイドが一人。”シド”と呼ばれる人間を探しているようだが、一向に見つからず焦っている、というところか。顔に焦りの色が見える。
 それもその筈、この屋敷の庭園はエヴェレット家と言われる大貴族が所有する、この国最大の庭園だからだ。たくさんの花が咲き誇り、噴水もあってとても美しい庭園だが、それはまるで巨大な迷路のような広さ。人一人探すだけで一苦労である。

「ああ……シド様、こんなところにいましたか……。シャーロットお嬢様が探しておられましたよ?」

 メイドが話しかけたのは、黒猫と無邪気に遊ぶ、綺麗な銀髪とオッドアイを持つ一人の少年。”やっと見つけた”とでも言いそうな息を切らしたその顔を見ると、この少年が”シド”で間違いないらしい。

「ん? 姉さんが僕を……? そういえばそろそろ昼食の時間か」

 シドはベストのポケットから懐中時計を取り出す。時刻は十二時半とお昼時。懐中時計を仕舞うと「また後でねキティ」と、先刻までじゃれていた黒猫を腕から離した。

「シャーロットお嬢様は庭園の噴水の場でお待ちです。なんでもシド様と庭園ランチをお楽しみになりたいと……」
「有難うメリッサ。じゃあロッティのところに行ってくるね」

 シドはにこやかな笑みを浮かべて、メリッサにお礼を言った。噴水の方向に走り始めようとした時、ドスッと音がしてシドは尻餅をついた。何かにぶつかったらしい、シドはお尻を摩りながら上を見上げると……。

「シド! 中々来ないから探したわよ」
「ロッティ!? 噴水の方に居るはずじゃあ……」
「シドが中々来ないから探しに来たのよ」

 腰の辺りまで伸ばした、これまた綺麗な金髪を持つ少女、シャーロット——通称ロッティは尻餅をついたシドの手を掴むと、よいしょとシドを引き上げた。

「シャーロットお嬢様……わざわざ申し訳ありません」
「いいのよメリッサ。私が勝手に探しに来ただけだから」

 メリッサは言葉通り申し訳なさそうに一礼する。シドが「メリッサは悪くないよ」と言っても、何故かメリッサは謝り続けた。どうやらメリッサは謝り癖が強いらしい。
 これは止めないと終わりがなさそうだ。シャーロットもシドも、呆れ顔で笑っている。だがいつまでもこれでは仕方ないので、そんな空気を打ち破るように、ロッティがパンと手を叩いた。

「さあ、折角のランチが冷めてしまうわ。有難うねメリッサ、行きましょうシド」

 シドは尻の砂埃を払いながら「うん!」と元気良く答えて、噴水の方へと走って行った。