ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Fate of Chains ( No.8 )
日時: 2009/11/14 12:38
名前: 某さん ◆PHKOj6t3P2 (ID: YpJH/4Jm)

Episode03
Darkness-闇黒の渦-

 ——ん……此処は?
 シドはゆっくり目蓋を開いた。視界に入ってきたのは、日の光が差し込むどこかの森。どうやら今居る場所は、さっきまで自分の居たエヴェレット家の屋敷ではないらしい。

「やあ、お目覚めはいかがかな? シド=エヴェレット?」

 突然シドの耳に入ってきたのは、さっき自分の頭に響いてきた謎の声。ハッとして声の聞こえる方を振り替えると、そこにはにこりと優しげな笑みを浮かべる、一見爽やかな青年だった。だがシドがその青年を見て感じた事は、不思議な違和感。人だが——”人ならざるもの”のようだと。

「君は……だ」
「オレの事は知らなくていいよ、君が知る必要なんてないんだからさ」

 シドが言葉を言い終える前に、青年が答えた。さっきと変わらない優しげな笑みだが、それには他に物を言わせない気迫があった。シドはそんな青年を見て何か危機感を覚え、ブルリと震える。
 そんなシドに青年は近寄り、座り込んでいるシドと同じくらいになるよう屈み込んで、シドの頬に手を当てる。

「え……あ……」
「うん。銀髪、青と金のオッドアイ。やっぱりそうか……。背は伸びたようだけど、変わらないね」

 青年の言動に、シドは同様する。シドには青年が何を言っているのかが、まったく理解できなかった。それもその筈、シドは今日青年と初めて会い、青年の事は何も知らない——だが青年は、まるでもっと昔からシドを知っていたような口振りなのだ。
 先程とは違い、”にこり”ではなく”にやり”とした笑みを浮かべる青年の手を、シドは出切る限りの力で振り払った。

「僕は……、僕は君なんて知らない! 君は誰なんだ、さっきの声は何なんだよ!?」

 シドはキッと青年を睨み、警戒心をあらわにするが、青年は顔色一つ変えずにニコニコと笑っている。それが爽やかな風貌の青年を、逆に妖しく引き立たせていた。
 その不気味さに、ヒッと怯えるシド。足が竦み、身体がブルッと震える。シドと青年の距離は10mもない。逃げようとしても、今の距離では簡単に青年に捕まってしまうだろう。

「あのね、オレが君を此処に連れてきたのにはワケがある。オレには……いや、ある人には君が必要なんだよ。だから、一緒に来て貰う必要があってね」

 青年がそう言うと、青年の後ろに何やらブンと音がして、黒い渦が出現した。まるで、全てを吸い込んでしまうブラックホールのよう。
 ——何だこれは……。僕、どうなっちゃうんだ……。
 妖しげな雰囲気を纏う青年に、その後ろに出現した謎の黒い渦の組み合わせ。その不気味過ぎる組み合わせに、シドは自分が何か夢でも見てるのではないかと思う。いや、これが夢であってほしいと思った。

「じゃあ、来て貰おうか? 一緒に」

 青年は一歩、二歩とシドに近づいていく。シドは怖くて手足に力が入らず、抵抗ができない。
 青年が最初に会った時の笑顔で、にこりと笑う。そしてシドの手を掴むと、二人は闇の渦へと吸い込まれていった——。