ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Fate of Chains ( No.9 )
日時: 2009/11/14 15:47
名前: 某さん ◆PHKOj6t3P2 (ID: YpJH/4Jm)

Episode04
Two Rabbits-ウサギともう一匹ウサギ-

 青年は黒い渦の中で、シドを抱えて空中で浮きながらどこかへと進んでいた。
 黒い闇が蠢く中で一方シドは、青年の腕の中で小さな子供のように怯えている。まあそれも、先程の事尾があれば仕方無いというところか。
 ブルブルと震えているシドを覗き込んで、青年は笑顔のまま言った。

「どうしたんだい? やっぱ子供には、この闇に包まれた空間が怖いかな……? 大丈夫、無事に此処から出られるから。……君が抵抗さえしなければね」

 心配しているような口振りだが、最後の言葉は口調とは反していた。まるで”抵抗すれば命は無い”と脅しているかのように。
 
「ねえ……」
「何?」

 シドが怯えた表情のまま、青年に問いかける。

「僕をどこに連れて行く気……?」
「それも君が知る必要の無い事だ」

 穴に入る前、シドが青年に名前を聞いた時と同じ態度を青年は取った。今のシドには、それにもめげずに目的を聞くような気力は残ってなく、何も言わずにこの話は終わる……そう思ってた。
 だが、青年は言い終わった後、シドを左手に抱えた状態で右手を顎にあて何やら考え込んでいた。そして結論付けたように頷くと、口を開いた。

「うん、やっぱりどこへ連れて行くくらい話してあげようかな。オレが今向かっているのは、君の世界から見た一種のパラレルワールドだ。それで今、その世界に向かう為に色々な異次元に繋がっている、この穴を通っているわけなんだけど……」

 青年はそう話しながら、シドのベストのポケットから懐中時計を取り出し、今浮いている場所から懐中時計を放り投げた。
 するとどうだろう、懐中時計は見る見るうちに下へと落ちていき、闇の中へと消えていった。

「えっ……?」
「驚いた? さっきも言った通り、この穴は色々な次元と繋がっている。それはつまり、様々な時間の流れが混ざり合った空間なわだ。もしそれに飲まれたら最後、二度と元の世界には戻れなくなる」

 呆然と懐中時計の落ちた方向を見ていたシドだが、ハッとして青年の方を見た。青年はシドの言いたい事が分かっているらしく、にこりと笑ってシドを見る。

「……”じゃあなんでお前は、こんな空間を平然と渡れる事ができるんだ”って顔だね? それはさ、俺がエーテルだからだ……って危なっ」
「話が終わるのはまだですか? 私はもう待ちくたびれました」

 青年は突然飛んできたナイフをギリギリでよけた。ナイフは先程の懐中時計と同じように、闇に落ち消えていった。青年は「ふう」と溜め息を付くと、ナイフが飛んできた方向を見上げる。
 青年とシドの上空にいたのは、黒服の小さな少女。太股の中間辺りまで伸びている長い金髪に、エメラルドのような瞳を持つ可愛らしい外見とは裏腹に、表情はまったくと言っていい程の無表情だった。
 
「お久しぶりですね、セス=ベイクウェル。いや、白兎(ホワイト・ラビット)。今日は子供を連れて何をするのか興味深いです」
「やあ三月ウサギ(マーチヘアー)。機嫌は……あまり良くないようだね? 折角の再会なのに、残念だなあ」
「私は残念ではありません。むしろ不快です。貴方のような汚らわしいウサギは、とてつもなく邪魔なので早く消えてくれると助かるのですが」

 少女はまるでロボットのように、感情の篭っていない言葉を紡ぎだしていく。だが話しながらも、青年——セスを殺せる機会を伺っている様で、片手にはダガーが握られている。スキあらば抹殺しようとしているその姿は、愛らしい外見とはまったく似合わない。
 一方のセスは、少女の毒舌を「慣れている」とでも言うかのように、軽く受け流していた。——ただし、シドに見せていたような余裕ある笑顔は、欠片もなかったが。

「おとなしく拘束されて下さい白兎(ホワイト・ラビット)でなければ、貴方を此処で始末する事になります」

 少女はそう言ってダガーを握り締める。

「嫌だと言っ……」

 「嫌だと言ったら?」そういい終える前に、少女のダガーがセスの首元へと向かっていた。