ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Fate of Chains ( No.3 )
日時: 2009/11/18 21:42
名前: 某さん ◆PHKOj6t3P2 (ID: YpJH/4Jm)

Episode02
Rabbit Hole-悪戯ウサギの通り穴-

 *

「まったく、何で俺がお前と一緒の任務なのか……」

 様々な次元と繋がる巨大な穴——通称『ウサギの通り穴』(ラビット・ホール)の中に、ルチアとクレイグはいた。
 巨大な穴でしかも特殊な時空であるとはいえ、何故仲の悪い二人が穴の中で一緒にいるかというと、彼らにはある任務がかせられていた。

「知りませんよ。少なくとも白兎捕獲は私一人で充分でした。なのに支部長は監視係、しかも貴方のような者を任務に連れて行けと言ったのです」
「お前一人で行かせたら白兎殺しかねないから、俺が監視係として来てるんだろ。ていうか支部長『連れて行け』なんて言ってねーよ。何で俺がお前の部下みたいな扱いになってんだよ……」
「私の方が貴方より上だからです。全てにおいて存在において」
「……一発撃たれたいのか?」

 クレイグは懐から一つの小型の銃を取り出す。表情は変わっていないが、怒っているのは行動からよく分かった。ルチアもそれに対抗しようと、どこからか取り出したかは分からないが、暗殺用の数本のナイフを取り出していた。
 彼らにかせられた任務とは白兎の捕獲。だがこれでは間違って白兎を殺す前に、仲間同士で殺し合いが始まりそうな雰囲気である。

『おい、二人とも武器を収めろ。今は喧嘩してる場合ではなかろう』

 ルチアとクレイグの耳に、聞き覚えのある声が入ってきた。先程副支部長と呼ばれていた、銀髪の少女レイシーである。何らかの方法で二人に自分の声を届けているようだが、それが何なのかはまったく分からない。

「申し訳ありません副支部長。只監視係が無能なだけで」
「悪かったな無能で……」

 ルチアの容赦の無い罵りに、クレイグの中にふつふつと怒りが込み上げてくる。でもそれを心の奥で止めているのがさすがだ。先刻は銃を取り出していたが。
 レイシーはルチアとクレイグのいがみ合いを軽く流して、話を続ける。

『そろそろ白兎が来る。一人の子供を連れてだ。白兎が来たら拘束して支部に連れて来い。子供は保護して同じく支部に。子供をどうするかは、支部長と妾で決める』

 レイシーの言葉に「はい」と二人とも返事をすると、そこでレイシーの声は途切れた。
 声が途切れると、クレイグは「はあ……」と小さな溜め息を付く。

「どうしたのですか」
「いやさ……何か面倒臭い事になりそうな気がしてな」

 その言葉に、ルチアは無表情で答える。

「貴方のゴミ屑のような勘など、当たらないので大丈夫ですよ」
「そーか、そうだといけどな……」

 *

 青年の言葉に、セシルは驚きを隠せずにいた。初めて会った筈なのに……相手は自分の事知っているのだ。
 もしかしたら目の前の青年は、自分が知っている人間なのかもしれない。此処は名前を聞いてみよう、とセシルは結論付けた。

「あの……名前」
「ん?」
「貴方……何ていう名前なんですか?」

 セシルの問いに、青年は笑顔のまま答えた。

「オレか……。まあ知る必要の無い事だろうけど、一応教えておくとしよう。オレはフラン=ベイクウェル。改めて宜しくね、セシル=エヴェレット」

 ——フラン……? 聞いた事はない筈なのに、どこか懐かしいような……。
 セシルが何やら考えているうちに、フランはセシルの手を掴んでいた。がっしりと、セシルが逃げられないように。
 セシルは吃驚して慌てて手を離そうとするが、やはり逃げられない。一瞬、フランの笑みが「にこり」から「にやり」に変わった。その笑みは見る者を震わせる、妖しい笑顔……。

「じゃあ、一緒に行こうか?」

 笑顔を元の優しい笑顔に戻したフラン。その時にはもう、二人はその場にはいなかった……。