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Re: Start Code -始まりの暗号- ( No.6 )
日時: 2009/11/27 22:00
名前: 威世-Ise- (ID: 6Yf0UZnU)

Code1 運命の歯車は狂い出す

紅い……——
足元に流れるのは、大量の血だった。
血の海の中に倒れるのは見たこともない知らない男性。
そしてその傍らで泣き叫ぶ、幼き少年。
それは自分だった。
小さな手が紅く染まった大きな手を握り締める。
「夜櫃……。お前に……を託す。必ず……守り、ぬけ……」
自分の名を呼ぶ知らない男性。
何故だ。
俺はこんな人、知らないのに……。
何で胸が苦しくならなくちゃならないんだ——
こんな感情、俺には必要ないものなのに……。

「夜櫃!!」
明るく透き通った声が耳を突き抜けた。
(なんだ……。また、あの夢か……)
聞き慣れた声に夜櫃(ヤヒツ)は目をゆっくりと開く。
「……屡祈か。もう時間なのか?」
無造作に切られた黒髪を軽く整え、夜櫃は眠そうに欠伸をする。
屡祈(ルキ)と呼ばれる少年はその問いに首を大きく縦に振った。
「にしても……うなされてたぞ? 悪い夢でも見てたのか?」
その問いに夜櫃が答えることはなかった。
「行くぞ」
ベッドに置いてあった丈長めの黒のパーカーを羽織り、夜櫃は部屋を出た。

   *

まだ辺りは暗く、人の気配も少ない。
夜櫃達が住んでいるこのアラガスという町。
ここは治安が悪く人々の罵声が聞こえない日はない。
(やるなら今か……)
どこの人家よりも大きく、光り輝く屋敷。
町で悪徳成金と名を馳せているグランドフィルの屋敷だった。
夜櫃は屋根に時限式の小さな爆弾を仕掛け、勢いよく屋根から飛び降りた。
その瞬間大きな爆発音と共に白い煙が辺りを囲む。
「行けっ!!」
夜櫃の合図と共に屡祈と数人の少年達が屋敷内へ入り込んだ。
「……俺も行くか」
夜櫃達はこの町で悪徳成金ばかりを狙い強盗繰り返していた。
町では治安部や警察が彼らを捕まえようと目を光らせている。
市民からは密かに救世主なんて呼ばれているが所詮ただの物取り。
捕まればそこでおしまいだ。
夜櫃は煙の立ち込める屋敷内を気配を潜め進んでいた。
『セキュリティーコード故障 セキュリティーコード故障』
さっきの爆発で屋敷内に張り巡らされていたセキュリティーコード、簡単に言えば屋敷内の保護シールドが壊れ、どこの部屋の戸もすぐに開くようになっていた。
「さて、コイツはどんだけ溜め込んでんのかな」
夜櫃が不敵そうな笑みを浮かべ金庫の置かれている地下へ向かおうとした瞬間、仲間の悲鳴が耳に入った。
「チッ!!」
夜櫃は声の聞こえた先へ向かう。
「大丈夫か!!」
息を切らして飛び込んだ部屋には屡祈以外の数人の仲間が倒れていた。
銃で撃たれてはいるが、どうやら急所は外しているようだ。
「誰にやられた!!」
辛うじて意識のある仲間に問いかける。
「屡……祈……あいつ、裏切りやがった……。あいつは、警察の特殊部隊……Codeだ」
そう言って意識をなくした仲間を部屋の隅に寝かせ、立ち上がろうとした瞬間だった。
後ろに気配を感じた夜櫃は銃を取り出し振り向く。
しかしその時には遅かった。
何者かに手を押さえられ、銃が彼の手から離れた。
「ごめんね。夜櫃……俺の仕事は君達の確保とこの屋敷の持ち主、グランドフィルの始末……だからさ」
屡祈はそう言って笑い、夜櫃の目を手で覆った。
彼の身体から力が抜け、ゆっくりと床に崩れ倒れる。

「さて。そろそろタイムオーバーが近いから行かなきゃね」