ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Start Code -始まりの暗号- ( No.9 )
- 日時: 2009/12/07 16:41
- 名前: 威世-Ise- (ID: GlcCI1C/)
Code2 鳴り響く鐘の音に耳を澄ませば
朦朧とする意識の中、遠ざかる屡祈を見つめながら夜櫃は意識を失った。
カツン……カツン……
頭の中に直接響いてくるような革靴の音。
血溜まりの中に膝をつく幼い自分。
だんだんと近づく靴音。
それに気づいた幼き俺は冷たくなりつつある男性の手を握りながら振り向く。
「国王の死亡確認完了。任務終了とする」
その低く重い声に俺の心臓は鼓動を早める。
聞いたことがあるその声の発信源は暗い紫の髪の軍服を着た見たこともない男だった。
なびく髪の隙間から時折見える冷たく鋭い瞳が俺を捉える。
「お前が……」
男が何かを呟き自分に手を伸ばす。
聞き取れなかった男の言葉……お前は何者なんだよ——
そこで夜櫃の意識が戻った。
「また……あの夢かよ……。クソッ!! 一体何だってんだよ」
屡祈の裏切りだけでも頭が混乱しているのに、夜櫃は床を一発殴り、目を瞑った。
鮮明に残るあの夢の映像。
自分の名を呼ぶ血まみれの男、
その血で染まった手を握り締める幼い自分、
冷徹な目で自分を見つめる軍服の男……。
「こんなこといつまで考えてても結論なんで出ねぇ……。屡祈を探して全部問い詰めてやる」
夜櫃は仲間全員の安否を確認し、部屋を後にした。
*
「やっぱり貴方が“そう”だったんですね。グランドフィル様?」
屋敷にある広間で向き合う屡祈とグランドフィルと呼ばれる長身の若い男。
二人の目線は両者の瞳を捕らえて逃がさない。
冷たい空気が部屋に流れる。
次の瞬間、屡祈の左手が蒼い光に包まれる。
蒼い光は瞬く間に海のような深い蒼のブレスレットに姿を変えた。
(なんなんだよあれはっ!!)
広間の太い柱の影に隠れて様子を見ていた夜櫃はその異様な光景に目を丸くしていた。
(確か特殊部隊には自分の体内に埋め込まれたCodeを武器として具現化できる奴がいるって聞いたことはあったけど、あいつがそうなのかよ!?)
頭の整理をしていると屡祈の声が耳に通った。
「貴方も早く姿を見せたらどうですか? 本当の姿じゃなきゃ、俺とは戦えませんよ?」
そう不敵に笑みを浮かべる屡祈の表情が今までに見たことがないほど冷徹さを浮かべる。
「そうか、特殊部隊Codeか……。面白い……相手になってやろうじゃないか!!」
不気味な笑い声を上げ、そん瞬間に広間一体は黒い煙に覆われた。
「……醜い悪魔の化身と言われているだけはありますね。本当に醜い姿だ、グランドフィル」
やっと煙が消え始め、グランドフィルの姿が夜櫃の目に映る。
「なんだよ……。化けモンじゃねぇか」
目の前に映し出されたのは真っ黒な翼、つりあがった残酷な闇を映し出す瞳、爪は伸び、口元には二本の牙があった。
まるで悪魔そのものだった。
夜櫃が唖然としてその不気味な姿を見つめているときだった。
「そこに何かいるな?」
さっきまでのあの物腰の柔らかそうなグランドフィルの声がやけに暗く聞こえる。
夜櫃は身をビクリと震わせた。
嫌な汗が頬を流れていく。
「夜櫃!?」
夜櫃の姿を見た屡祈は驚いたような表情で彼を見つめた。
「っ……」
見つかったことに動揺し、夜櫃は言葉を口にできない。
「おや? 君はさっき爆発を起こしてくれた子だね? 夜櫃というのか」
不気味に笑い声が広間に響く。
その声は夜櫃の身体を冷たく凍らせる。
「夜櫃!! 逃げて!! 仲間を連れて早く逃げて」
夜櫃を見つめていたグランドフィルの目が屡祈へと移る。
その瞬間屡祈に向けて黄金色の光線のようなものが飛ばされた。
屡祈の身体は広間の壁まで吹っ飛び、砂埃が部屋に広がる。
「この子からは何か普通の人間とは違うものを感じる。貰っていくぞ」
グランドフィルの大きな手が夜櫃へと迫る。
手が夜櫃の目の前まで来た時だった。
「ガキガキって子供だからって甘く見んなよ!!」
夜櫃は腰元から銃を取り出し、グランドフィルに向けて発砲した。
「ぐぁっ」
命中した弾によろけるグランドフィルの横を通り、夜櫃は屡祈の元へ駆け寄った。
「無事か!?」
床に倒れている屡祈の身体を起こし、夜櫃は呼びかける。
「大丈夫……。寸前で軽く防げたから……」
屡祈の左腕にあるブレスレットが薄く光っていた。
「あとで全部聞かせもらうからな。お前のこと、この化けモンのこと、お前の力のこともな」
「分かった」
そう頷き屡祈は立ち上がる。
「今は協力してやる。早く終わらせるぞ、屡祈」